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「事業継続に向けて様々なリスクを想定し対応する!」事業継続力強化計画×BCP×ISO認証

「事業継続力強化計画」は、自然災害等による事業活動への影響を軽減することを目的とした中小企業向けの事前対策計画です。この計画には、例えば、災害時における従業員の避難・被害状況把握、社内体制の設定などの初動対策に加え、人員、設備、資金繰り、情報保全にあたって必要な対策などを記載します。有事の際の取組を簡易かつ簡潔に策定でき、中小企業にとって危機対応力を高めることができる有効なツールとなっています。事業者が単独で取り組む場合と複数事業者が連携して取り組む場合のいずれでも計画を策定することが可能です。特に後者は連携型と呼ばれており、事業者単独では対応できないサプライチェーン上のリスクについて複数事業者で相互協力体制を計画する際などに有効です。
 また、国による計画認定を受けた中小企業は、防災・減災設備に対する税制優遇や低利融資などの支援を受けることができます。
 今回は、有限会社中澤製作所の事例を紹介します。

有限会社中澤製作所は、昭和50年4月に長野県千曲市で設立された、自動車や家電、医療用のコネクタ製造を主とする企業です。金型設計・製作から生産加工までの一貫受注を可能としています。また平成24年8月に統合ISOを取得し、ライン内に自社で開発した省力型検査機を設置し、製品の全数保証を行うなど、ISOに準じた品質保証体制を整えています。

ISOの中でも、ISO22301(事業継続マネジメント)を取得し、災害への備えも積極的にしており、事業継続力強化計画の認定も受けています。
そこで、防災・減災のための取組について、中澤洋一代表取締役にお話を伺いました。

中澤代表取締役

防災・減災対策に取り組んだきっかけを教えてください。

東日本大震災の発生時に、顧客の関連企業が被災したため、宮城県へ救援活動に行きました。そこで津波による被災状況を目の当たりにしましたが、想像を絶するような光景で、大きな衝撃を受けました。当社の近隣にも千曲川があり、もし氾濫した場合には同様の被害を受ける可能性があると考え、他人事ではないと感じました。
このことを受け、事業継続マネジメントシステムに関する国際規格ISO22301の認証を平成25年に取得しました。ISO22301とは、事業の中断・阻害を引き起こす事態への組織的な対応策の構築および運用などを実現することが狙いの規格で、認証取得によりリスクマネジメントの実現、組織体制の強化などの効果が図られます。
ISO22301の認証後、同年にBCPを作成し、当社の災害時の体制・対応を確立させていきました。BCPは見直しを重ね、現在では第8版となっています。その中で、当社の事業継続に向けた体制整備については、さらなる検討を行う必要があると判断しました。そこで、事業継続力強化計画の策定に至りました。

事業継続の体制を整えていくうえで、どのようなことを検討されたのでしょうか?

当社の立地場所は1.2mの浸水地域であることから、工場の建て替えを行い、震度7にも耐えられる構造としました。2階は水害の影響を受けにくいことから、災害時には対策本部として機能できるよう、PC関係の保管や生活物品等の備蓄を行いました。また、顧客からの借用図面および重要書類も2階に保管しています。
また、スタッフで定期的にワークショップを行い、その中で当社のリスクを浮き彫りにし、実際に計画に落とし込んでいます。このワークショップでは、事業継続を困難にする事象として、災害はもちろん社員の退職や受動喫煙などについてもリスクとして設定して議論を行っています。一般的な認識の事業継続では扱わないような事案もリスクとしていますが、社員と全て手作りで行っていて、こういったテーマの設定から社員と一緒に行うことで、事業継続の取組も自分事になると感じています。
ほかにも避難場所の決定も行いました。これらは全てBCPでも定めており、災害救助に行った経験を生かすことができました。

BCPや事業継続力強化計画を策定していたことが実際の災害では活かされましたか?

平成26年1月には、県内で大雪警報が発令されたことがありました。警報が発令されたタイミングでBCPを発動し、従業員を早めに退社させた後、全員が無事に帰宅したことを確認しました。翌日には徒歩で出勤可能な従業員と、会社周辺や顧客の被害状況の情報収集を行いました。また、取引先に納品等が難しい旨を事前に連絡したほか、会社周辺や近隣住宅前の雪かきを行いました。最終的には積雪が1m近くに達しましたが、当社に大きな被害はありませんでした。このときのBCP発動を受けて、例えば雪の重みで屋根が抜けたらどうするかなど、BCPであらゆる可能性を考える必要があると感じました。そしてこの経験を機に、除雪機を新たに購入しました。
また、令和元年に台風19号が発生した際には、BCPを発動させ、スタッフの帰宅、安否確認を行いました。当社は台風の被害は受けませんでしたが、近隣企業において材料や製品が2ヶ月分浸水したとのことで、当社で代替生産を行いました。その際に当社には当該製品の製造設備がなく、他県から設備を借り、24時間稼働で生産を行いました。代替生産に係る費用は先方の希望した単価で行いましたので、当社にとっては大きな商売にはならなかったものの、この代替生産を機に新たに取引が始まった企業もあります。この他にも、被災企業から設備の修理および復旧を依頼され、毎週末ボランティア支援を実施しました。

こういった経験を踏まえ、事業継続力強化計画の策定の際、災害時には近隣の一般家庭なども救助し、地域に貢献していくことを新たに定めました。事業継続力強化計画の認定を取得すると、ロゴマークの活用や補助金の加点などのメリットがありますので、それらを有効に活用しています。
 あわせて、日頃から千曲市や戸倉上山田商工会と連携をとっています。防災・減災関係の市主催セミナーにおいては、災害対応の実体験やBCP策定の内容及び重要性について講演しました。千曲市は事業継続の観点から防災・減災関係に力を入れており、事業者への支援策も充実していて大変ありがたいです。

(右から)戸倉上山田商工会 大槻主任経営支援員、中澤代表取締役、千曲市 橘田係長

防災・減災対策も含めて様々なリスクを想定して行動されていますね。

宮城県の災害救助から帰ってきてISO22301の認証を取得しようと決めました。社内では必要性を疑問視する声もありましたが、被災現場を見たからこそチャレンジすべきだという意思を貫きました。ISO22301の他にもISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO45001(情報)、ISO27001(労働安全)の4つのISOを取得していますが、全て事業継続につながっているといえます。品質保証、健康被害、情報漏洩、労働災害など、様々なリスクを幅広く想定していかないと、BCPは生かされないと考えています。
また、保険の見直しを行った際に、これまで加入していた保険では水害が補償されないことが分かり、加入を見直しました。企業は目先の資金確保などにどうしても重きを置いてしまい、保険の重要性が下がりがちですが、実際に災害が起きたらどうするのかを常に考えながら行動していく必要があると捉えています。

有限会社中澤製作所と中澤代表取締役

【企業概要】
有限会社中澤製作所
代表取締役 中澤 洋一(なかざわ よういち)
長野県千曲市大字上徳間宇橋場749-1

事業継続力強化計画(中小企業庁のサイト)

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

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