見出し画像

“日本初”を創り続けた会社が挑戦する表面処理の未来!

経営者の情熱を発信していく“Project CHAIN”。第6回目は、埼玉県川越市に本社のある株式会社フロロコートの諏訪部社長にお話を伺いました。同社は、1954年に業務用パン焼型に日本で初めてシリコーン樹脂コーティングを提供し、さらに1957年に日本で初めてフッ素樹脂コーティングを提供して以来、フライパン、アイロン、ホットプレート、炊飯釜など次々と「日本初」のコーティングに成功。その後も家庭用品から宇宙産業まで幅広い分野で「日本初」に挑戦してきました。そんな「日本初」の会社を2代目社長として受け継いだ諏訪部社長に、新しい時代に挑戦する想いを聞きました。

会社を引き継ぐベストタイミングとは?父の時代とは違う時代を引き継いで‥。

-「日本初」へのこだわりはどのように生まれたのですか。

第二次世界大戦中パイロットだった父は、終戦を迎え一般企業に就職をしましたが、戦後混乱期の中、就職した会社が次々と倒産してしまうという困難に直面してきました。そのような中、とある商社から紹介された「フッ素樹脂」に出会い、現在の会社の前身となる東京シリコーンを創業しました。国内では新しい素材だったため、当時は何をするにも前例のない挑戦の連続だったと聞いています。皆さんに馴染み深いフライパンへのフッ素樹脂加工も弊社が日本で初めて成功させました。

-その後も数々の「日本初」のコーティングをされてきたそうですね。創業者であるお父様から会社を受け継ぐプレッシャーはありましたか。

プレッシャーはあまり感じませんでした。元々、小学生の頃から漠然と自分が将来継ぐのだろうと思っていましたが、進学先は家業を意識せず選び、大学では統計学、入社後は渡米してMBAを取得する過程で経営学やマーケティングを学びました。化学素材を扱う会社でありながら、化学の専門知識を学ばずに後を継いだので、自分はそもそも専門家ではない、ということを初めから知っていました。また、父と私は全く違う立場だということも知っていました。父の時代は、世の中になかったものをゼロから開拓し試行錯誤する時代でしたが、私の時代は、成熟・開発し尽くされてきた市場・技術とどう向き合うか、環境規制などの様々な経営条件下で何を選択するのかを考える、という時代です。全く違う立場であるからこそプレッシャーに感じる必要がなかったのかもしれません。

-後を継がれたのは東日本大震災が発生した年でしたね。

はい、実はこの時期は、震災の影響もあり業績はそれまでと比べると良くはありませんでした。一般的に、事業承継は、業績の良いときや財務状況を整理してから受け継ぐことが多いと思います。私は、業績があまり良くないときに受け継ぐメリットは何かと考えました。業績が良いときに承継すると、仮に業績を維持・上昇させたとしても、元々の流れがあるため、新体制での功績を評価されにくいですが、業績が良くないときは、少しでも回復出来れば、信頼を得られるのではないかと考え、それならばチャレンジしてみようと事業承継を承諾しました。

フッ素樹脂の原料となるホタル石

加工業ではなくコンサルタント業という意識

-フッ素樹脂コーティングというと、真っ先にフライパンのコーティングをイメージしますが、どういった加工なのでしょうか。

フッ素樹脂には、モノがくっつきにくい(難付着性)、薬におかされない(耐薬品性)、すべりやすいなど様々な特性があります。これらの特性を活かして、例えば、お米がこびりつきにくい炊飯器、材料がくっつきにくく滑らかに搬送できる工場のベルトコンベヤー、地震の揺れをすべりの特性を生かして受け流し揺れを軽減させる免震装置など、色々な物に使われています。
弊社のフッ素樹脂コーティング素材は、約200種類ある材料の中から、お客様が求めるニーズや塗装する部材の性質に合わせてトッピングしていくため、お客様の困りごとを正しくくみ取ることがとても重要になります。やっていることは、加工業というよりは、コンサルタント業に近いと思います。
加工技術では、形状、大きさなどに応じて、塗装機器又は手作業でムラのない塗装を行っています。ベテランの塗装職人は、1~2ミクロンの厚みをその日の湿度や温度などに合わせて調整することが出来ます。

-すごい職人技術ですね。そういったベテラン社員やその他の社員さんとの関係で社長として気を付けていることはありますか。

私は、ベテラン社員、若手社員、パート社員などの立場に関係なく1人1人心から尊敬をしています。どの社員にも尊敬の気持ちを持って接することで、みんなが気持ちよく業務に当たれるように心がけています。どんな立場の社員であっても私より優れた所が必ずあって、例えば、梱包をとてつもない速さで行うパート社員、理論で仕事を取ってくる営業職の社員、人柄で仕事を取ってくる営業職の社員、高度な機械を操作する社員など様々で、どれをとっても私には真似のできないスキルであり、弊社には欠かせない大切な人材だと考えています。

品質保証として自社加工品の評価はもちろん、
取引先からの依頼に応じた評価も行っている。
塗膜が水や油をどの程度はじくかを評価する評価装置

表面処理の未来を追い求めて

-幅広いニーズのあるフッ素樹脂コーティングですが、これから挑戦してみたい分野はありますか。

これまで築いてきたフッ素樹脂コーティングの実績や、約4,000社にのぼる取引先のお客様を大切にしながら、新しい時代に合う新しい価値を提供し、挑戦していきたいと思っています。
そのため考えていることは2つあります。1つ目は、環境規制に対して、メーカーとして正しい情報発信をしていくこと。そしてもう1つが、こうした環境規制の流れにより、使用できない材料が出てくるならば、他の手段を探すなど常に模索していくこと。私たちは、「物」を売るのではなく、「機能」を売っている会社だと思っています。なので、フッ素樹脂に限らず、お客様の困りごとを解決するためには何が出来るか?を考え、最適な提案をしていきたいのです。
最近では、粘土から生まれた「熱トルネード」という放熱材による塗装を始めました。「放熱」は、電子機器が小型化・高度化し、ファン等の冷却装置を置けないような狭い環境で課題になっています。「熱トルネード」は塗るだけで熱を取ってくれる優れた機能に加え、主原料が粘土であり環境負荷が小さいことから、これからの可能性を感じています。
とあるベテラン社員が「物の表面が無くならない限り、我々の仕事は無くならない」と言っていたことがありますが、この言葉が示すように、私たちは、これまでの材料や技術に限定せず、物の表面に付加する「価値」を追求し続け、新しいことに挑戦していきたいと思います。

高放熱コーティング加工を可能とする「熱トルネード」

【企業概要】
 株式会社フロロコート
 代表取締役社長 諏訪部 充弘(すわべ みつひろ)
 本社:埼玉県川越市芳野台1-103-37

-編集後記-
世の中に変革をもたらした会社を受け継ぐと、大きなプレッシャーにさらされることもありそうですが、諏訪部社長は、持ち前の柔軟な発想力と思考力を用いて、積極的な経営をされていました。環境規制や同業他社の追随、顧客ニーズの変化など、変わり続ける経営環境に臨機応変に対応しつつも、新しいことに挑戦するという姿勢は、先代の時代から変わることなく守り続けていました。同社が、これからも新しい機能や価値を創り出し、表面処理の未来を切り開いていくことに期待したいと思います。
                           担当特派員AH

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!