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「組合員が協力して防災・減災力の強化に取り組む」初動の共通認識を持つためにシンプルなタイムラインを作成!

 「事業継続力強化計画」は、自然災害等による事業活動への影響を軽減することを目的とした中小企業向けの事前対策計画です。この計画には、例えば、災害時における従業員の避難・被害状況把握、社内体制の設定などの初動対策に加え、人員、設備、資金繰り、情報保全にあたって必要な対策などを記載します。有事の際の取組を簡易かつ簡潔に策定でき、中小企業にとって危機対応力を高めることができる有効なツールとなっています。事業者が単独で取り組む場合と複数事業者が連携して取り組む場合のいずれでも計画を策定することが可能です。特に後者は連携型と呼ばれており、事業者単独では対応できないサプライチェーン上のリスクについて複数事業者で相互協力体制を計画する際などに有効です。
 また、国による計画認定を受けた中小企業は、防災・減災設備に対する税制優遇や低利融資などの支援を受けることができます。
今回は、複数企業で連携して計画を策定した、協同組合静岡流通センターの事例を紹介します。

 協同組合静岡流通センターは、静岡流通センター内の50社(卸売業39社、運送業4社、製造業7社)からなる協同組合です。静岡流通センター内にはこの他に組合外の32社も存在しており、センター内には全82社が立地しています。1969年に設立され、1975年に国の指定卸商業団地として操業を開始し、東海地区の物流の拠点として地域の暮らしを支えています。敷地面積約23万㎡の第1団地と、敷地面積約5万4000㎡の第2団地で構成され、今後第3・第4団地の建設も予定されています。
 同組合では、令和3年に連携事業継続力強化計画の認定を受け、協同組合としての組織力を生かしながら、防災や被災時の取組を積極的に行っています。連携事業継続力強化計画を策定した背景や成果について、事務局の濁澤 直也 業務課長と、組合青年部会長を務める株式会社大和工機の伊藤 琢真 取締役にお話を伺いました。

静岡流通センター全景

「連携事業継続力強化計画」に取り組んだきっかけを教えてください。

 従前から、当組合では防災活動に取り組む組織として「防災委員会」が設立されていました。当時の防災委員会は、組合に加入する企業の社員で構成されていましたが、社員間での交流が盛んではありませんでした。ほとんど面識のない社員同士では、災害時対応の際、遠慮してしまい、組織として機能するのは難しいのではという意見がありました。また、年に2回防災訓練を行っていましたが、災害時の動き方についても細かいところまでは定めておらず、口頭での申し送りしかない状態でした。
 協同組合は様々な人が暮らすひとつの街のようなものなので、有事の際は組合員同士で助け合っていく必要があると考えています。組合員の防災意識を高めていきたいという思いもあり、連携事業継続力強化計画の策定に取り組みました。

組合青年部会長の伊藤 琢真 氏(左)と事務局の濁澤 直也 氏

連携事業継続力強化計画はどのように作成されたのですか。

 中小企業基盤整備機構が実施する連携事業継続力強化計画の策定支援事業を活用し、派遣頂いた専門家の方と相談しながら作成しました。
 まず、連携事業継続力強化計画は、協同組合の中でも青年部に加入している企業8社が中心となって協力しながら作成しました。この8社を計画の中核に位置づけ、当該企業の青年部員に協同組合内に設置した防災委員会内の各ブロック長を務めてもらうことにしました。若くて機動力のある青年部員を防災委員会に組み込むことで、指揮命令系統を強化しました。
その一方で、防災委員会において、事前に役割分担は明確に定めず、ブロックごとに必要に応じて班を編制し、初期消火・初期救助活動を行うことのみを定めました。以前、地震災害のボランティア活動に参加した際に、一部の地域で人員が余ってしまっている現状を目の当たりにしたので、復旧活動に向かう人員が無駄にならないためにも、初動対応では被災状況や復旧に必要な人員の確保など、連携・連絡をしっかりととることが重要と認識しました。事前に役割を細かく決めてしまうことで、災害発生時に班の担当者が不在だった場合に混乱を招くことを懸念したため、流動的に対応できる体制にしました。

 計画作成にあたっては、どこに重点を置いて連携していくべきか悩みました。協同組合をひとつの町として捉えると、助け合って事業を行うことが大切であると考えたため、まずは組合として、組合員の事業の早期復旧をサポートすることに絞りました。具体的には、はじめに自社のお客様・従業員の安全確保、自社の被害状況確認を行い、その内容をブロック長がまとめます。その後、ブロック長と災害対策本部が防災無線を使ってやり取りすることにより情報を集約。それを踏まえて人員支援や復旧作業の指揮をとることとしました。これらの対応を基本的に一週間で行い、組合内の企業で被害に遭った人の救助、被災した企業等の片付けを手伝い、協力することを優先としました。

計画に基づいて、組合ではどのような取組を行っているのですか。

 毎年3月と9月に防災訓練を実施しています。この防災訓練には、静岡流通センター内にある組合員以外の32社にも参加を呼びかけております。あわせて訓練時には当該地区の災害リスクに詳しい専門家を講師として招き、「防災講習会」を開催しています。令和5年3月には「2022年台風15号被害のまとめと流通センター地区における水害対策BCPについて」をテーマに講演頂きました。講習会では自社の災害リスクに見合った保険の見直しの声かけも必ず行っています。昨年の被災の経験もあってか、防災訓練への参加者は増えており、防災意識の高まりを感じます。
 有事の際に従業員が動きやすくするために、タイムライン表を作成しているのですが、組合員50社と、組合員以外で防災訓練に参加した企業に配布しています。タイムライン表では、優先順位を①人命の安全確保、②自社の片付け、③近隣事業者の片付けと設定し、シンプルで誰にでも分かりやすいものにしています。文字と図で表すことで、初動対応の共通認識が持てるように工夫しました。

計画作成後、組合内で何か変化がありましたか。

 防災・減災への対応が明確化されたことで、防災に対する共通意識をもつことができるようになりました。そして計画に落とし込んだことで、方針の見える化ができたといえます。
 その一つの取組として、情報伝達をよりスムーズにするため、今まで防災委員間でのみ使用していた防災無線を組合員企業50社に無料で貸与することにしました。また、青年部が防災委員会で実働的に動くことで、ブロックの防災担当者同士での意見交換が活発化し、情報共有が図れ、防災・減災に対しての体制が強固になりました。例えば流通センター周辺で内水氾濫が起こった場合、防災委員会を通じて組合に情報を集約することができ、それをもとに各企業が対応を的確に判断して取り組める体制が整いました。
 組合員各社の防災に対する意識も変わってきていると思います。防災・減災への取組に積極的になり、こういう時はどう行動したら良いのか?といった問い合わせが、普段から事務局に来るようになりました。また、防災訓練の参加者は以前よりも増加しました。

昨年の台風15号の際には実際に災害に直面されましたが課題はありましたか。

 令和4年9月の台風15号の際には、アクセス道路が全て冠水し静岡流通センターが陸の孤島となり、さらに1日程でしたが停電が発生し、固定電話が使用できず混乱が生じてしまいました。
 その教訓を生かすためにも、もっと防災無線を有効活用しようという意見が出て、無線の使用条件の見直しを行いました。無線が使える範囲は2㎞以内で、静岡流通センター内であれば通信が可能です。防災無線は充電式のため利便性も高く、1台3万円程度であるため、有線の防災放送の工事をするよりも安価です。
 あわせて、災害発生後に風水害時タイムライン表を改めて見直し、事前準備の重要性を全員で再確認しました。令和5年6月2日に静岡で線状降水帯が予報された際には、タイムライン表を活用し、情報共有を図り、従業員を早めに帰宅させました。特に大きな被害は出ませんでしたが、このような対応を積み重ねていくことで、防災時の対応をアップデートしていくことができます。

今後の防災・減災への取組についてのお考えを教えてください。

 事業継続力強化計画を策定することは、自社の経営を見つめ直す良いきっかけにもなります。本業の経営と事前の備えとしての事業継続力強化の取組に対する意識はイコールであり、防災・減災対策を行うことは、事業の強みにもなるといえます。実際に災害を経験したことがない場合、対策を考えることは難しいですが、普段起きないようなことを自社に当てはめて考え、経営の面と防災・減災の面どちらにおいても、主要な人がいなくても自発的に動けるように、自社にあった対策を行うことが大事です。

 組合として、今後の有事の際にお互いに助け合うことはもちろん、従業員が主体的に動けるような仕組みを強化していきたいと考えています。タイムライン表についても、適宜アップグレードしています。加えて、線状降水帯発生時の対応のための道路冠水・内水氾濫マップも作成したいと考えています。引き続き防災訓練やタイムライン表を活用して、組合員の防災・減災に対する意識を高めていきたいと考えています。

【企業概要】
協同組合静岡流通センター
理事長 伊藤 哲(いとう さとし)
静岡県静岡市葵区流通センター2番1号

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