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「1枚のタオルに想いを込める!」あるジーパン好きの青年が社長になるまで

経営者の情熱を発信する”Project CHAIN”第42弾。今回は、東京都青梅市に本社を構えるホットマン株式会社の坂本 将之(さかもと まさゆき)代表取締役社長です。同社は青梅市で唯一となるタオルの一貫製造を行う会社で、タオルの最も重要な使命である「素早く水を吸いとること」をコンセプトにした「1秒タオル」は圧倒的な高い吸水性を持ち注目されています。坂本社長がホットマン株式会社と出会うこととなったきっかけは中学時代にまで遡ります。坂本社長に「繊維」に興味を持つこととなった学生時代の体験、ものづくりへの思いを伺いました。

きっかけはジーパン。繊維との出会い

-繊維に興味を持ち始めたのはいつ頃のことでしょうか。

中学3年生の時に、バスケ部だった後輩がジーパン姿で一人シュート練習をしている姿を見たことがきっかけです。かっこいいジーパン姿が印象に残り、服に興味を持つようになりました。高校に入って行動範囲が広がってからは古着屋めぐりをするようになりました。実は私の出身は岡山県なのですが、岡山県が有名なデニム(ジーパン生地)の産地ということも当時は知りませんでした。古着屋に行ってはジーパンを見て、他の衣料品と違い履き込むほどに味が出るところに興味を持ちました。当時は第1次古着ブームで、古着屋にはボロボロのリーバイスが額に飾られ、値段が100万円だったことを今でも覚えています。

-ジーパン好きが大学選びにも影響を与えたそうですが。

高校2年生になって進路を検討する際に、大学でジーパンの勉強ができないものかと考えるようになりました。当時はインターネットもなかったので本でいろいろと調べたところ、国内で唯一、信州大学に繊維学部という学部があることを知りました。繊維の学部であれば、ジーパンの授業があるはずだと勝手に考え、進路は信州大学一本に決めました。ただ、実際に進学してみたら、ジーパンの授業はありませんでしたが(笑)。

-大学では何を勉強されたのでしょうか。

繊維学部に世界で初めて感性工学科(現 先進繊維・感性工学科)が新設された年で、1期生として入学しました。感性工学は人の感覚、感性という主観的なものを科学的手法で分析して生活や社会に活用しようという学問です。物理学や材料力学といった分野から心理学や大脳生理学まで幅広く勉強しました。
製品は物理的な数値指標で品質を判断することが多いですが、必ずしも人の感覚と一致しないことがあります。これを結び付けていくイメージです。今では感性工学について学べる大学は増えていますが、当時は世界的にもめずらしい学科で勉強をしていました。

-ホットマンに就職するきっかけを教えてください。

ジーパンは好きでしたが、趣味は自分が喜ぶもの、仕事は人を喜ばせるものという考えを持っていたので、ジーンズ業界は就職先から外しました。ただ、自分の好きな天然素材に関わる仕事はしたいと考えていました。当時はまだ自分でも明確なものがなく製造にも販売にも興味があったので、ものづくりも販売も両方を自社で行っている会社を探しました。教授に相談してみると、最初はそんな会社ある訳ないと言われましたが、その後、一社だけ青梅のホットマンという会社が製販一貫という仕組みでタオルの製造から販売まで自社で行っていることを教えてくださいました。早速、本社の青梅工場を見学してみると、説明してくれた社員の方がいい人で、自然豊かな青梅という土地も気に入り、労働条件・給与のことを何も知らないまま入社を決めました。お金よりも、面白いことが出来たらという気持ちが強かったように思います。

青梅工場内。職人さんの手で丁寧に縫製しています。

工場、販売の現場で学んだこと。38歳の若さで社長就任

-入社当時はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。

本社工場で生地を織る仕事に1年携わった後、埼玉県の川越工場に異動して染色を1年半やりました。ものづくりが好きでしたので、製品が出来上がる工程を一貫して経験できて楽しかったです。また、セール時期は販売応援として店頭に立って販売もしました。最初は接客に不慣れでしたが、工場で働いていると直接お客様と会話をする機会がないので本当に良い経験になりました。お客様から、普段自分が製造しているタオルや会社のことを大好きと言っていただけたことが仕事のやりがいにも大きく繋がりました。その後、生地を織る製織部門の責任者を経て工場長に就任し、事業全体に責任を持つようになりました。

本社併設の販売店。商品が丁寧に並べており、洗練された空間でした。

-38歳の若さで社長に就任されました。社長就任を依頼された時はどう思いましたか。

まず、社長になるということを考えたこともなかったですし、当時そういう立場でもなかったので最初に聞いた時は冗談だと思いました。本気だとわかっても、ものづくりが好きで、ものづくりの道を極めたいという気持ちでやっていたので最初はお断りしました。話をしていく中で、ホットマンの根底はものづくりにあり、海外から安価なタオルが大量に輸入される厳しい環境に立ち向かう上で、ものづくりが分かる若い社員が指揮を執っていかなければ未来はないと言われたことが心に響きました。工場での経験が豊富な社長は2代目以来となりますが、2代目社長には自宅に呼んでもらい、会社の理念や歴史、ものづくりの話を聞かせてもらっていましたので、そのような経験も思い出し、社長に就任する意思を固めました。

-社長に就任された当時を振り返っていかがでしょうか。

社長になった当初は、経営の経験がないため何が分からないかも分からないような状況でした。ただ、苦労したというよりも、社員や周りの方々に支えてもらったことが強く印象に残っています。社長交代でバタバタとしている中でも、社員がそれぞれの立場で責任を持って行動してくれました。現場の責任者をやっていたころは、若い人の仕事までつい自分でやってしまい、技術の伝承が十分に出来ておらず独りよがりだったとの反省もありましたので、社長に就任してからは、あまり細かいことには口出しせず、社員が働きやすい環境を整備するように心がけています。

-坂本社長が考える、社長の役割とは何でしょうか。

会社の存在意義である経営理念を社員に浸透させ、会社の方向性を決めることだと思っています。ホットマンの理念は「お客様の快適で心豊かな生活に貢献する」というものですが、理念は変わらなくても「快適」「心豊か」の中身は時代に応じて変化するものです。例えば、40年前は欧米への憧れもあり大きくて重いタオルが豊かさの象徴だったかもしれませんが、現在は、ホットマンのタオルを使うことでサステナブルな社会に貢献出来るといったことも心の豊かさに繋がる時代になっています。
ホットマンタオルの製造においては、環境負荷の高い薬剤を使っておらず、製造の過程で発生した端材もすべてリサイクルしています。また、タオルの原料であるコットンのフェアトレードにも取り組んでおり、グリーン購入大賞も受賞しました。すべては経営理念に沿って行動してきた結果だと考えています。

フェアトレードでサステナブルなものづくりも同社の強みのひとつです。

ものづくりの魅力と今後のビジョン

-坂本社長にとって、ものづくりの魅力とは何でしょう。

自分が携わったものが誰かの笑顔を生んでいて、それに気づいた時に自分も幸せになれるところだと思います。私たちにとっては日々販売するタオルであっても、お客様にとっては特別な1枚であり、すべての商品が誰かの幸せにつながっています。日頃は気づくことが難しくても、お客様からお声をいただくことで実感し、仕事に対して誇りと充実感を覚えます。仕事とは人を喜ばせるものだと思いますが、ホットマンは製造、販売の両方をやっていることから、それに気づきやすい環境にありました。

-最後に、今後のビジョンを聞かせてください。

理念の追求は変わりません。時代とともに見直しを続けていきます。ほかには、一人でも多くのお客様に弊社の商品を手にとってもらえればと思い、直営店舗のほかにも販路を広げていきたいと考えています。海外にも商品を届けられるところを増やしていくつもりです。
製造に関しては、品質へのこだわりを続けることに加えて、日本の製造業が衰退している現状を寂しく思う気持ちもあるので、今後も国内製造を続けていきたいと思います。

背景はホットマンの歴史です。理念追求に向けた坂本社長の挑戦はこれからも続きます。

【企業概要】
 ホットマン株式会社
 代表取締役社長 坂本 将之(さかもと まさゆき)
 東京都青梅市長淵5-251

-編集後記-
“Connecting the dots”はスティーブ・ジョブズの有名なスピーチの一節ですが、坂本社長の半生も振り返ってみれば点と点がつながった一本の線のように感じました。ホットマンの経営理念はお客様の快適さ、心の豊かさにあります。私も取材の際にハンドタオルを購入しましたが、吸水性が良く、いつも下ろし立ての感触で使用できることから、毎日の小さな幸せにつながっています。
                           派遣特派員 IY

インタビュー中、終始穏やかかつ丁寧にお話されていたのが印象的でした。坂本社長の誠実なお人柄が表れているようでした。様々なエピソードを伺いましたが、特に心に残ったのは「自分が携わったものが誰かの笑顔を生んでいて、それに気づいた時に自分も幸せになれるところがものづくりの魅力」というお話です。自社でものづくりと販売を手掛けてらっしゃるからこそのお言葉だと感じることができました。工場や販売所までご案内いただきありがとうございました。
                                      派遣特派員 KS

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