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成功するまでやり続ける、頑張り続けていれば応援してくれる人が現れる。医学教育者が求めていた高品質の教育ツールを開発した秘訣と想い

経営者の情熱を発信する“ProjectCHAIN”第21弾。今回は、神奈川県横浜市で医療の聴診分野においてITで課題解決を図る株式会社テレメディカの藤木清志代表取締役です。
聴診専用スピーカ「聴くゾウ」や仮想空間聴診シミュレータ「iPax」の開発により、医学教育において多くの医師達から信頼を寄せられている藤木代表から開発におけるキーノートを伺いました。

「人の役に立てる仕事がしたい」幼い頃からの変わらぬ思い

―幼い頃の藤木代表について教えてください。

理科、その中でも化学の分野が好きな子どもでした。その頃から将来は、「得意分野で意味のある仕事をしたい。困っている人を助けてあげたい、感謝される仕事がしたい」と思っていました。
また、ものをつくることに熱中する性格で、やり始めるとそれだけに集中してしまうこともありました。進学についても好きな分野である化学に絞りました。人の役に立てる仕事として薬剤師を目指し、大学卒業と共に薬剤師免許を取得しました。その後は、薬剤師の知識が活かせる仕事として製薬会社に就職しました。

―就職後に起業を考えたきっかけはどのようなことでしたか。

薬剤師の資格を持っているため、製薬会社で働く傍ら多くの知人から健康相談を受けていました。相談を受けるにつれて、病気への不安を抱える人が多いと実感しました。また、相談をしたいと思っても、医療関係者の知人がいなければ気軽に相談することはできず、自分自身でインターネット検索をした場合「怖い病気」が目につき余計に不安になる実情があることも分かってきました。
その現状をどうにかできないかと考えていた時に、人工知能の研究に触れる機会を得て、その経験から人工知能を用いた診療相談システムができないかと考えました。2010年当時、人工知能は一般的ではなかったのですが、これを活用することで誰もが気軽に自らの病気について相談できるようにしたいと思ったことが起業のきっかけです。
AI診断アプリの開発は、製薬会社勤務時代からの関係で、各分野の専門医に監修していただき2013年に完成しました。アプリは某チェーン薬局に提供し、薬剤師やお客様の評判も良かったのですが、事情によりサービス終了となりました。その後、一般消費者向けに事業展開を行おうとしたのですが、人工知能による診断行為に関する理解が今とは異なり、高い壁があることに直面しペンディングにすることにしました。今思うと時代が早すぎたのかもしれません。

聴診器を用いて聴診の学習ができるようにした聴診専用スピーカ「聴くゾウ」

手作りから始まった「リアルな音」を目指す長い旅路

―その後、聴診分野に展開された経緯を教えてください。

実はAIアプリを開発している時に、知り合いの薬学部教員から「薬剤師フィジカルアセスメント教材」の開発相談がありました。薬剤師フィジカルアセスメントと言うのは、薬の副作用などが出たとき、医師の診察手技を活用してその評価をするための身体診察技法の事で、当時この教育が薬学部や薬剤師の間で注目されていました。AIアプリ開発で「病気の症状と診断」に関する情報を整理できていましたので、その手技を学ぶ教育システム開発は、私たちに絶好の機会でした。そのような中から、より臨床的に重要で、かつ現在の教材に課題がある分野を選定し、「聴診教育」に絞っていった経緯があります。
聴診教育のためには、音を発信する装置(スピーカ)と音源の両方が必要です。私たちはより実際の患者に近い音を作りだすために、音の発信装置はパイオニアに製造を委託し、音源は自分達で作る方法を選択しました。
 スピーカ開発については、イヤホンをタオルで巻いてそこに聴診器をあてて聴いたのが最初のステップでした。その後、秋葉原の電子部品店で部品を購入し、はんだ付けした「小学生の夏休み工作的なプロトタイプ」が完成しました。それをパイオニアの知人を通じて「聴くゾウ」が完成したという経緯です。

音源については、自ら作成するほかありませんでした。と言うのは、音は言葉では説明できないからです。いろいろな言葉や擬音を駆使し、音響技術者に説明し音の作成を試みましたが、残念ながら自分たちが欲しい音、専門医が満足する音を作ることはできませんでした。
音源加工ソフトは専門的なソフトウエアであるため、使いこなすのが難しい。ですが、それさえできるようになれば自分たちで聴診音を作ることができると考え、トライアルアンドエラーを繰り返し、専門医にも度々指導を受けながら、専門医を納得させることができるレベルの音を作ることができるようになりました。今では「リアルな音」は弊社では当たり前のことになりましたが、それまでの過程は筆舌尽くし難い苦労の連続でした。

「聴くゾウ」と「iPax」(左の大型モニタ内)を駆使して熱心に説明して下さいました。

医療機器が進化しても医師と患者との信頼関係は変わらない。その絆を作るのが聴診

―臨床医が驚くほどリアルな聴診音の再現…。まさに執念が生み出したプロダクトですね。とてもパワフルな藤木代表の原動力を教えてください。

医学教育者や臨床医の高評価、弊社事業に賛同する旨の言葉が一番のエネルギーになります。開発を続けていても、それが市場に受け入れられるのか?という不安もあり、正直なところ真っ暗闇の中を、出口が見えない中を進み続ける状況でした。ですが、開発を通じて関係ができた専門家達から度々応援がありました。メールや電話、時には専門家自身の書籍を頂き、心からの応援を頂いた事が大きなエネルギーになったことは間違いありません。目標に向かって頑張っていれば、その目標が他の方から見ても良いものであればあるほど、点が線になり、線と線が絡み合いながら網になっていくことをまさに実感しています。
一般的に使われている聴診教育用の教材は、録音時のノイズが混入していたり、編集が甘く音質が実際と違っていたりするものがかなり多いと思います。しかし、そのような音で学習しても聴診能力は上がりません。「聴診」は音を聴いて診断する医療技術です。その技術を高めるためには、実際の音を聴く必要があると私たちは考え、その開発に取り組んだことが専門医に認められたのだと思います。

―今後の目標を教えてください。

リアルな音は当然のこととしてとらえ、今後は臨床に則したケーススタディに注力したいと思っています。実臨床では、問診や視診、聴診の後、例えばレントゲンや心電図などの検査が行われ診断が下されます。その一連の診断過程を私たちの学習プラットフォームで学ぶことができるようにバリエーションを増やしていきたいと考えています。
さらには、学習者のレベルに応じたコンテンツをAI制御することで効率的に学習することができるシステムに昇華させていきたいと思っています。医学を「人に対するサービス」と考えたとき、そこには人(医師)と人(患者)のつながりが重要で、AIや医療機器に完全代替することは不可能だと思っています。なので、医師や研修医は、対人業務としての重要部分を先輩医師から学び、それ以外はAIシステムで学べるようになれば、人的資源を再配分しながらより効果的効率的な医学教育になるだろうと思います。

―最後に一言お願いします。

私たちがたくさんの方から応援を頂いたように、私たちも頑張っている人たちを応援していきたいと思っています。苦しくてもあきらめずに頑張る。立ち止まりたくなっても動きを止めずに目標に向かってアクションを続ける。それこそが、周囲の方の心に響くのだと思います。
しつこいほどに諦めず、目標に向かって誠実に動き続ける。これだと思います。

【企業情報】
  株式会社テレメディカ
  代表取締役 藤木 清志(ふじき きよし)
  神奈川県横浜市青葉区つつじが丘9番地1

-編集後記-
強い意志を持って、常に行動を続ける藤木代表。ご本人の行動力や意思はお話を伺っていてもすごく伝わってきます。取材するこちらも大きく心が動かされる時間でした。その裏側には、医療従事者と患者との絆づくりに貢献したいという強い原点があるのだなと感じました。
加えて、「手当をする」というのは、まさに「手を当てる」こと。「医師が患者に手を当てることで、患者は納得し満足するのです」と藤木代表は教えてくれました。患者さんに優しく、その人の満足感を大事にすることを忘れない、かっこいい人だなと感じました。だからこそ多くのドクターからも応援されているのだなと実感した取材でした。 
                            派遣特派員IY

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