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「お前は社長の仕事を何もしていないし、わかっていない」メンターとの出会いで見つけた経営における大切なこと。

経営者の情熱を発信する“ProjectCHAIN”第24弾。今回は東京都世田谷区に本社を置き、埼玉県志木市にある工場において、加工から装置、材料、熱交換器製造まで「ろう付」という接合技術をトータルで取り扱う東京ブレイズ株式会社の松康太郎(まつ・こうたろう)社長にインタビューしました。松社長は日本溶接協会や溶接学会の委員会幹事等の要職を担いながら、ろう付材料及びろう付工程のISO国際標準規格を作成する会議の議長も務める「ろう付」のプロフェッショナルです。「ろう付」とは、母材より低い温度で溶ける金属(ろう)を用いて金属同士を接合する技術です。家電部品、自動車部品から航空宇宙機器まで幅広く活用されているものづくりには不可欠な技術のため、大企業や海外からの相談も多く寄せられています。同社は「人材育成」を大切にした組織作りに取り組んでおり、そのきっかけとなった出来事などについて松社長にお話を伺いしました。

松社長は研究熱心。国内外での学会発表に加え、溶接学会からの表彰や日本溶接協会会長特別賞の受賞、複数の特許取得に尽力

カリスマだった父の教え

-松社長の経歴を教えてください。

 私は、3人姉弟の真ん中です。長男ということもあり幼い頃から会社を継ぐことを意識していました。高校までは普通科で学び、仕事に繋がることをより専門的に学ぶために大学は工学部金属材料工学科に入り、大学院でも勉強しました。卒業後は就職しようと思っていましたが、当時お世話になっていた教授から留学を勧められました。英語力を身につけるために留学することに決め、コロラド州立大学大学院に行きました。そのおかげで英語力が身につき、海外での学会発表や海外からの問い合わせといった仕事上でとても役に立っています。

-幼い頃から会社を継ぐことを意識していたとのことですが、きっかけはあったのでしょうか?

 当社は、私が生まれた年に父が脱サラして始めた会社です。父親から「継いでくれ」という話はなかったです。ただ、社員の方などからは「長男だから継ぐんでしょ?」という言葉を掛けられていましたから、自然と自分の中で「継ぐんだろうな」という考えが定着して今に至っているというのが正直なところです。継ぐのを嫌だなと思うことはなかったですし、家業を超えるほどのやりたいこともなかった結果のような気がします。

-入社後はどのようなキャリアを歩まれたのですか?

 留学から帰国後の1996年に東京ブレイズに入社しました。入社後は現場一筋で、品質管理や研究開発などに夢中になって取り組んでいました。なぜなら、父には「自分でやれ、手に職をつけろ、人を食わせろ」と言われていたからです。そのため「ろう付」の知識と技術を極め、国内外での学会発表や論文の執筆、新技術と製品開発を手掛けて特許を取得するなど自分で何でもやろうとして、自分の成長だけに注力していました。2010年に社長に就任しましたが、引き続き自分の成長のために現場に出続けていました。当時の私は「社員の成長は本人次第」という考えでした。
 かつての私は「知識のあるかっこいい技術屋」を目指していましたが、私の強みを踏まえると目指すべき姿とは異なっていたものでした。つまり、自分らしくない、魅力的ではない経営者になろうとしていました。当時、社員の中でも私の振る舞いに違和感を覚えた人もいたようです。社員に意識を向けていなかった結果、私を信用できないとして会社を辞めた人もいました。

人を活かせば会社は良くなる

-ご自身の行動が目指すべきものと違うことに気づき、どうされたのですか?

 父は創業者で私は2代目です。創業者はゼロイチスタートで、何でも自分でやるので社員から尊敬されますし、社員の生活を守りながら全てを指示するカリスマです。私は、2代目として社長になりましたが、父のようなカリスマではないので「チームでやろう」という方針で経営をスタートしました。しかし、これまでのトップダウン組織状態から「チームでやろう」といきなり部課長に管理を任せてもできるわけがありません。創業者と2代目社長では、組織の動かし方が違うことを認識しました。改革への意欲はありましたので、経営を学ぶべくセミナーに参加しまくり、あるセミナーでの講師にメンターになっていただきました。

-メンターとの出会いで学んだことを教えてください。

 メンターには「お前は社長の仕事を何もしていないし、わかっていない」「2代目のボンクラ、お前の部下が可哀そうだ」と言われました。一方で、「お前は社長に向いている」「お前は経営で勝負しろ」「お前の強みを生かせ」とも言われました。

 私は、知識のあるかっこいい技術屋という自分を作ろうとしていましたが、私がどういう人間なのか考えると、技術がすごく好きなわけではないし、理系が得意なわけでもないということに気づきました。メンターとの出会いから、何事にも一生懸命取り組んだり、人の中心にいたり、人同士を繋げることに長けていると認識することができました。

-ご自身の強みを再認識され、経営にどう生かされたのでしょうか?

 結局のところ「人間」に人はついていくので、「この人のために頑張ろう」と思われる社長になろうと決めました。私が変われば良い会社になる、そのためには自分の強みを経営に生かすことが必要と考え、埼玉中小企業家同友会で学ぶことに決めました。この後も失敗を繰り返しましたが、自分自身の経験も含め「何でも自分だけでやる組織は継続しない」ことに気づき、人材育成に力を入れ「人を生かす経営」に舵をきりました。
 当社の人材育成として、自分で「考える」「行動を起こす」「判断できる」「表現できる」といった「生きる力」を掲げました。まずは私を含めた経営層から変わるべく、自分たちが実践することで浸透させていきました。その後、社員一人ひとりがチャレンジするようになり売上も増加し、人間関係も良くなったように感じます。

松社長は大学でのキャリア支援として学生に対して、自分の強みを生かすことの大切さについて熱く講演されています。

-今後目指していることはありますか?

 100年続く企業にしたいです。これからも成長を目指し、今働いている社員が定年まで働きたいと思える仕事をしていきたい。当社は「家業」から「企業」に変わるフェーズだと思っていますし、3代目社長は同族に限ろうとも思っていません。
 少し心配なのは、最近の若い人たちはこちらが問いかけると、こちらに忖度した回答が返ってくることが多いです。「あなた自身はどう考えているの?聞き手が求めている答えを探していないか?」と言いたくなることもあります。自ら考えることをやめたら人間はいらなくなってしまいます。
 これからも、当社が人材育成で掲げる「自分で考えることが出来る。」「自分から行動を起こせる。」「自分で判断することが出来る。」「自分なりに表現できる。」を大切にしながらお互いを認め、社員と一緒に成長していきたいです。

【企業情報】
東京ブレイズ株式会社
代表取締役 松 康太郎(まつ こうたろう)
東京本社:東京都世田谷区南烏山3-23-10
埼玉工場:埼玉県志木市上宗岡4-12-34

【編集後記】
「配られたカードで勝負」という言葉がインタビュー中に出てきました。これは犬のキャラクターでお馴染みスヌーピーの名言の一部分です。現状への不遇を嘆いてもなにも解決しない、今、目の前にある環境や強みで、自分の出来ること、求められることに全力を尽くしているのが松社長です。背伸びが必要な時もあるかもしれませんが、自分らしく自分のできることを素直に取り組むことの大切さを学ぶことができる貴重なお話を伺うことができました。
                          派遣特派員 KD


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