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劣等感と自問自答から得た自信。沸き立つチャレンジ精神こそ自分らしさ

経営者の情熱を発信する“ProjectCHAIN”第18弾。今回は、新潟県佐渡市でソーセージやサラミなどを製造・販売している有限会社へんじんもっこの渡邊拓真取締役です。
地元で愛される「へんじんもっこ」のソーセージ。この「へんじんもっこ」という名前は、「へんじん(変わった)」と、佐渡の方言で“頑固者”という意味の「もっこ」という言葉を合わせたものです。お客様のために新たなことを始めるという「決意」、そして美味しい食品を提供し続けるという「覚悟」が込められています。
同社で飲食店部門を任され、4年前にはアイス事業も立ち上げられた渡邊さんに、絶えることのないチャレンジ精神についてお話をお伺いしました。

新しいこと、新しい場所への探究心が導いてくれた「食」との関わり

-家業であるソーセージやサラミの製造に携わったきっかけを教えてください。

私は三人兄弟の次男ですので、兄が家業を継ぐことになるだろうと思っていました。
また、小学校時代にカナダ、高校時代にドイツを訪問する機会もあり、幼い頃から知らない世界へ飛び出ることが好きでしたので、将来は故郷である佐渡を出て、海外で仕事をすることになるだろうと漠然と考えていました。
高校卒業後はドイツに留学する予定でしたが、ビザが下りなかったため断念しました。それが家業に携わることになった最初のきっかけでした。

-その後、海外には行かれたのですか。

はい。高校卒業後に当社に入社し、ソーセージの製造や販売などをしていましたが、やはり「外の世界を知りたい」という思いが日に日に増していき、イタリアのフィレンツェに半年間ほど語学留学しました。
フィレンツェには日本の料理人も多く留学しており、彼らと話す中で食の世界への興味がどんどん湧いてきました。留学中は、珍しいもの、美味しいものを現地で食べ歩くことが一番の喜びでした。考えてみれば、子どものときからずっと身近なところに「食」があったなということに気付く機会にもなりました。

「deVincoは地域の方に愛される、支援されるレストランです」と笑顔で話す渡邊さん

迷ったときに立ち返る、自分という存在

-帰国後はどうされましたか。

帰国後に、留学時の友人から「独立するので飲食店を一緒に手伝ってもらえないか」と誘いを受けました。新しい場所で新しいことへチャレンジすることに対して大きなモチベーションを持っていましたので、佐渡を離れ、神奈川で働くことに決めました。
お店では、厨房から接客まで担当していましたが、4~5年経った頃から「このままやり続けていても自分は不完全燃焼で終わるのではないか」という思いを持つようになり、「違和感を持ったまま仕事を続けていることは、自分にとって本当に良いことなのか」と自問自答するようになっていました。

迷いや違和感を持ったときは、とことん自問自答するようにしています。「今の自分が自分らしいかどうか」を考えるのです。
迷いや違和感を持つときは、大抵自分らしくない状況になっているときです。昔から、一つの場所にとどまることよりも「新しいものを探したい、新しい場所で働きたい」という思いが強く、チャレンジを繰り返すような状況こそ、自分らしいと思っていましたので、自問自答が自分らしさに立ち返るきっかけとなりました。

-「チャレンジすること」が渡邊さんにとっての「自分らしさ」なのですね。

このときも自問自答の末、12年間働いた飲食店を退職しました。その後は独立を視野に東京で店舗探しをしていましたが、独立後のイメージを掴みきれなかったので、一度、自分の考えを整理するため佐渡に帰省しました。そのとき、外の生活を知りたい気持ちの裏側に、佐渡が無性に恋しくなる帰省欲のようなものがあることにも気がつきました。

また、ちょうど父がレストランを作りたいと新たな挑戦を模索していたタイミングでした。その事業を私に任せてもらえることになったのです。私自身、独立して飲食店を開業したいという気持ちを持っていたので、「本業で製造しているソーセージをイタリアンのお店で提供したい。佐渡の人に美味しい海外の料理に触れてもらいたい」とイメージが膨らんできて楽しくなりました。
開業当初は、食材を島外から取り寄せていたのですが、わざわざ高いお金を出して島外から取り寄せなくとも、佐渡にあるもので事足りることが分かり、この土地の素晴らしさを改めて認識しました。
佐渡には何でもあり、無いものがない。肉、魚、野菜、果物など食材の宝庫でした。

deVincoの店内はおしゃれな装飾が目立つ。自慢のソーセージやサラミも大人気。

料理の世界で感じた劣等感と、自問自答の末にチャレンジした新事業から得た自信!

-都会で経験を積み、食材の宝庫である佐渡に戻ってレストランを経営することで、得たことや感じたことはありますか。

開業して8年目になるのですが、この業界で生き残ることが出来るのか、不安に感じることがあります。それは自分自身と周りの料理人との料理への熱意の差からくる気持ちだと思います。
私が懇意にしている料理人たちは、仕事以外でも常に料理のことを考えている人ばかりです。一方で自分は食べることは好きですが、作ることへの想いは彼らには遠く及びません。
そのような料理人と肩を並べたいとは思っているのですが、自分は何を持っているのかが分からずに、ずっと悩んでいました。

-そのような中、答えは見えてきましたか。

「自分が人に負けないものは何か?」を自問自答して、誰にも負けないくらいアイスが好きだということに行き着いたのです。
私は幼い頃からアイスが好きで、今でも1日に7~8本食べています。生涯でアイスを食べた量はきっと日本人の上位5%以内に入っていると思います(笑)。
長続きしない自分でもアイスは昔から変わらずに好き。これは誰にも負けない自分だけの特徴だと考え、4年前にアイスの製造・販売という新事業にチャレンジしました。事業の立ち上げ時には、他の料理人と同じく、常にアイスのことだけを考え、全国各地を回ってアイスが好きな人に徹底的に声をかけ、どんなアイスが好きかなど聞き取りを行い、今のジェラートに行き着きました。

この取組のおかげで、今では劣等感や違和感を払拭出来て、レストランもアイス事業も自信を持って運営しています。
アイス事業を始めて、もう一つ自分の中で解決できたことがあります。それは果物農家さんへの恩返しと仕事の均等化です。
レストランでは、果物を毎日使いますが、仕入は少量だったため農家さんにも無理を言っていた部分がありました。アイス作りでは、一度に大量の果物を使用するため、多く買うことができるようになりました。また、観光客の少ない冬の閑散期に集中してアイスの製造作業ができるため、仕事の均等化に繋がりました。

おすすめのジェラート(越後姫いちご&プレミオミルク)。
佐渡産の果物やミルクをたっぷり使った濃厚な味。

-渡邊さんの性格を考えると、順風満帆なアイス事業においても、いい意味で佐渡にとどまることはできそうにありませんが、いかがでしょうか?

できないでしょうね。今考えているのは、アイスの海外展開と地域商社の立ち上げです。
海外展開では、佐渡のアイスを世界中のアイス好きに食べてもらいたいです。アイスに加工することで佐渡産の果物の価値を海外の人にも伝えることができるようになりました。佐渡の旬の食材の美味しさを、アイスを通して世界中の人に知ってもらいたいです。
地域商社については、今まさに立ち上げの準備を行っているところです。島内の同じ思いを持った同志と、会社の垣根を越えて連携し、佐渡の課題解決につなげていきたいです。具体的には島内でリキュールを製造する際に使用され廃棄されている苺を再利用してアイスを作りたいと思っています。佐渡はSDGsや多様性が育まれている島でもあるため、地域の食材などを活用して、それが課題解決へとつながる事業はとても相性が良いと考えています。
このような活動を通して、これからも佐渡をベースとして、自分らしく新しい挑戦を続けていきたいですね。

【企業情報】
  有限会社へんじんもっこ
  代表取締役 渡邊 省吾(わたなべ しょうご)
  取締役 渡邊 拓真(わたなべ たくま)
  新潟県佐渡市新穂大野1184-1

-編集後記-
自由で好き勝手。一つの場所にとどまることができずに外の世界を見に行く。自分をそう表現した渡邊さんですが、その一方で家業や飲食店事業を通して実感したのは、自社が地元に愛される企業であり、常に地元の人から応援してもらっているということだそうです。
そんな渡邊さん自身が一番、地元に魅せられているのだなと感じました。

                           派遣特派員 IY


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