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3年間の挑戦!地域で人事を担えるか ~「地域の人事部」~

関東経済産業局が実施する施策には、「現場」の実情を踏まえたオリジナリティの高い取組があります。それら施策に取り組む職員が思いや取組の裏側を語る、「施策の深層」。

第2回は、地域企業における多様な人材の活用などを促進するため、支援体制の構築を目指している、社会・人材政策課の植松愛実さんと次世代産業課(元・社会・人材政策課)の川崎聡也さんに話を聞きました。

(右)植松 愛実:地域経済部 社会・人材政策課 係長
(左)川崎 聡也:地域経済部 次世代産業課(元・社会・人材政策課) 係長

「地域の人事部」とは? 取組の背景とキッカケ

-政策的に「人」が大きなキーワードとなっています。社会・人材政策課はどういった業務を担当しているのでしょうか

植松:都市部、シニア、外国人などの多様な人材の活躍による、地域企業の生産性向上・イノベーション促進などを支援しています。多様な人材をいかに地域企業の成長に繋げていくかという点に着目した取組を実施しています。

-そのような中で、「地域の人事部」の取組を始めた背景・キッカケを教えてください

川崎: 当局では、以前より、兼業・副業による都市部人材と地域企業のマッチングを通じて地域企業が抱える経営課題を「人」で解決するという支援に取り組んできました。
取組を進める中で、多くの地域企業が「人」に関する多様な課題を抱えていることがわかりました。例えば、「働きやすい環境が整っていない」「人材が定着するための取組ができてない」「リスキリングができない」などが挙げられます。
一方で、人事の経験がある経営者は少なく、専任の人事・採用担当者をおける中小企業は僅かでした。

(出典)経済産業省未来人材会議「関連データ・政策集」

そのような状況では、地域企業のみで課題を解決することは困難です。そのため、日頃から企業に接している商工会議所・金融機関などの地域の支援機関の方々が「人」という観点で支援をすることが重要であり、その支援体制の構築に対して当局が支援できるのではないかと考えました。
そこで、地域で一丸となった支援体制が構築できないかと、支援機関・自治体等にアプローチを始めたのが、「地域の人事部」のはじまりです。
令和4年度は、日立市、常陸太田市、大子町、長岡市、燕市、松本市、塩尻市、三島市の8自治体で実証的に支援体制の構築の事業を行いました。

「人事」を支援メニューに

-「地域の人事部」を進めるにあたって、一番大変な部分は何でしょうか

川崎:初年度は、支援機関や自治体の巻き込みが大変でしたね。地域で取組を進めるにあたっては、支援機関にその意義を理解してもらった上で事業を進める必要があると考えていました。  

-どうやって地域の支援機関に理解してもらったのですか

川崎:当初は、なるべく事業の意義を理解してもらってから具体的な取組を実施しようと思っていましたが、まずは取組に参加してもらい、取組を知ってもらうのと同時に、参加企業のリアクションを近くで見てもらい、取組の有効性を感じてもらうようにしました。

-“体感”してもらうことから始めたのですね。その後、地域側に変化はありましたか

植松:2年目となった今年度は、地域事務局の意識がだいぶ変わりました。昨年度の都市部人材とのマッチング事業で、多くの都市部人材が自分たちの地域に関心を持っているということを知ったのが大きな要因だったのかもしれません。

川崎:参加した地域企業の前向きさや、都市部人材の熱心さに驚いた地域事務局が多かったです。なぜ立派なキャリアを持つ都市部人材が地域企業の課題解決に手を挙げてくれるのだろうと・・・
マッチング事業では、参加企業に対して多くの都市部人材が支援したいと手を挙げてくれました。地域企業1社につき、都市部人材5~6名から手があがるのも珍しくありません。

次世代産業課 川崎係長

-事業を通じて、地域には何を伝えたいのでしょうか

植松:我々はこの3年間を実証期間と捉えています。最終的には、8自治体以外の地域でも「地域の人事部」に取り組んでいただくのが目標です。実証期間の中で、それぞれの地域特性を踏まえた取組を行い、「地域の人事部」の構築に必要な要素を分析し、様々な地域へ展開できるようにしたいと考えています。
一般的に取組が進んでいる地域には、地域のために様々な活動をしている「キーパーソン」と呼ばれる方々がいます。「キーパーソン」の取組にスポットライトがあたることが多いのですが、実際にはそれ以外の方々の活躍もあります。地域にいる一人一人が自分は「キーパーソン」だと認識することが重要だと考えています。

川崎:実証事業の展開にあたり、他の自治体でも真似できるような伝え方をしないといけないと考えていました。例えば、「地域企業を『人』の観点で支援したい」という思いを持つ方がいたとしても、地域にキーパーソンがいないと諦めがちです。そのため、同じような境遇の地域で成果を出すことが重要で、「あなたと同じ境遇の地域でも成果が出ました。是非、真似してください!」と勇気づけることをしたいと考えています。

-「地域の人事部」のゴールは何でしょうか

川崎:現状、地域企業を「人」で支援することは、“特別支援メニュー”という位置づけになっている地域が多いです。そのため、「地域の人事部」の取組を通じて、その効果を認識してもらい、通常の支援メニューになることが大きなゴールです。販路開拓や海外展開支援などと同様、「人」による支援が支援機関における支援メニューの1つになってほしいと思っています。

植松:併せて、「人」は「管理」するのではなく「投資」するものであり、経営と「人」を連動させて捉えるべきという考え方が地域企業の経営者に浸透することも目指しています。私たちは「人的資本経営」と言っていますが、残念ながらこのような考え方は地域企業にはあまり浸透していません。まだまだこれからです。

社会・人材政策課 植松係長

人材活用で苦労している経営者の皆様、「地域の人事部」があります

-担当者としてのやりがいはどのあたりでしょうか

川崎: 「地域の人事部」を活用して課題解決した地域企業に喜んでもらえるのは当然のことながら嬉しいです。例えば、経営者向けに「人材定着」をテーマにしたセミナーを実施した際には、若手社員が感じている会社の課題や、見直しを図るべきポイントが明確化されたとの声をいただきました。
また、実証事業を行った地域の中には、昨年度の取組を通じて「人」の観点で企業を支援することの有効性を認識し、事業の取組体制が強化され、人材活用が自治体の総合戦略に位置づけられた地域があります。支援機関や自治体が「地域の人事部」の意義を理解し、ノウハウを取得することで、新しい気づきを得られているなと感じられた点は嬉しかったですね。

植松:「地域の人事部」を構成している支援機関が増えたり、大企業と連携した取組を検討するなどの拡がりがみられる地域もあります。こうした前向きな動きを目にすると、やりがいを感じます。

「地域の人事部」の体制(令和5年度)

-「地域の人事部」というネーミングは、当局の発案ですか?

川崎:似たような言葉はあったようですが、支援機関同士をネットワーク化して「人」に関する支援を行う事業の総称として名付けたのは、前の社会・人材政策課長です。
このような動きを経済産業省本省も注目しており、「地域の人事部」をテーマにした補助事業が始まりました。当局が地域の実情を経済産業省本省に打ち込み、実際の支援策につながり、とても嬉しく思っています。

-せっかくなので、川崎さんから後任となる植松さんへのメッセージをお願いします

川崎:4年目には、地域で支援ができるようになる必要があります。そのため、今年度と来年度は、4年目以降を見据えた動きができるかが非常に大変だと思います。地域で支援体制が構築され、地域がこの取組を自分達の力で続けてくれるようになると嬉しいです。

植松:この事業は、社会・人材政策課のメンバーが「全員野球」で取り組んでいます。地域毎に主担当・副担当を決めて対応しているため、各地域の状況は全員が把握しています。メンバーが変わっても、各地域において取組が進展するのは、課内に「地域の人事部」の目的・目指すべき方向性が根付いているからこそだと思っています。そういった体制作りをしてくれた川崎さんを始めとする昨年度のメンバーには感謝しています。後任としてのプレッシャーはありますが、これからも「全員野球」で自走化に向けて頑張りたいと思っています。

-「人」で苦労している経営者の方々に何かメッセージがあればお願いします

植松:地域の人事部が実施するセミナーやマッチング事業に参加することは、それ自体、人的資本経営の実践になります。実証地域の経営者の方々には、その点をメリットに感じていただき、ゆくゆくは、「人」のお悩み=地域の人事部に相談しよう!という発想が広がっていくと嬉しいです。

川崎:時代の流れに合わせて、新しい取組にチャレンジすることも大切です。今、日本の人口は減少しているので、「人」に選ばれる企業になることが重要です。そのような企業になるために、課題があるようであれば、様々な支援メニューをご用意しておりますので、恐れずに取り組んでください。

「地域の人事部」のご紹介
関東経済産業局では、地域の支援機関が単体で企業を支援するのではなく、地域の支援機関、自治体等がそれぞれの強みを活かし一丸となって地域中小企業の多様な人材活用を推進する体制を支援しています。具体的には、それぞれの地域において、人材戦略・組織変革支援、人材採用支援、人材育成・定着支援を行っています。

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