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元職人で現場監督。そして建築会社とIT企業を経営。中堀 健一が仕掛けたDXがすごい~株式会社log build~

こんにちは、関東経済産業局 政策評価広報課です。
地域を巡る中で出会った驚き、感動、夢などを伝えていきたいと思います。
今回は、建設業界が長年抱える長時間労働などの課題をDXで解決しようとする株式会社log build(神奈川県横浜市)を紹介します。

ペンのない工務店

「ペン、ある?」どこの職場でも聞かれる何気ない会話。返ってきた言葉は「ここには、ありませんよ。」

神奈川県藤沢市にある工務店、株式会社ecomo(エコモ)での一幕です。ペンがなかったのは偶然ではありません。ecomoのオフィスには、工務店と聞いてイメージするような大きな図面や定規、ペンなどが見当たりません。
デスクにあるのはノートパソコンやiPad。壁に書棚はなく、ディスプレイが掛かっています。社員は、整然として広々としたオフィスを自由に席を移り、ノートパソコンやiPadを使って図面を描いたり、顧客と打ち合わせたりしています。

これを実現させたのは、中堀社長。ecomoから建設テック部門を独立させて株式会社log build(ログビルド)を設立し、DX化を徹底的に進めました。

社内を突き当りまで見通せるecomoのオフィス(Smart Builderとして日本一DX化したオフィス。全国からスーパーゼネコンやハウスメーカー、地場ビルダーなどが日々視察に訪れるホットスポット)

社長は元職人で元現場監督

中堀社長が、log build設立に至った思いは、30年ほど前の自身の経験まで遡ります。当時、職人を経て現場監督だった中堀社長は、昼間は車で現場を数カ所回り、夕方事務所に戻ってから工程表や見積書の作成といった事務仕事をこなす残業が当たり前の毎日でした。

月日は経ち、デジタル化など技術の進化に伴い、企業は「効率化」「生産性向上」を追求するようなりましたが、建築業界は旧態依然とした働き方で、長時間労働が常態化しています。
ただ、建築業界も変化を求められています。猶予されてきた改正労働基準法での時間外労働の規制強化が、2024年4月から適用されます。こうした状況に危機感を強めた中堀社長は、自ら動きます。

現場監督としての経験から、中堀社長はすべきことがわかっていました。現場監督の仕事で一番時間を取られていた「移動時間」をなくすことです。現場監督は一日の3.5時間を現場を回る移動に使っており、実に一日の業務時間の4割以上を占めていました。この移動時間をなくすことができれば、事務仕事に割ける時間ができて残業も減るはずです。そこで考えたのがDXによる現場の遠隔管理です。

中堀社長。若い頃は現場監督として活躍

現場監督はオフィスにいる

DXによる現場の遠隔管理を目指し、SONYでAIBOやPlayStationの開発に携わった人材や、リクルートで住宅分野に携わってきた人材、住宅リフォームコンサル出身の人材など様々なキャリアを歩んできた8人が集まり、2020年、log buildは設立されました。

翌年、遠隔管理システムLog System(ログシステム)を開発します。Log Systemによって、現場をVR(仮想現実)化し360度見渡せるようになり、現場監督はオフィスにいながら、進捗管理・品質管理・安全管理をすることができます。また、現場で職人がかざすスマートフォンを遠隔操作し、高解像度の写真撮影やスマートフォンのライトを自動ONすることができます。

Log Systemは、PCはもちろん、スマホやiPadで遠隔地の工事進捗などをオフィスから管理可能

これまでは毎日足を運んでいた現場ですが、Log Systemを使うことで、現場に行くのは週1回程度になりました。移動時間は大幅に減り、空いた時間を事務作業(情報管理・原価管理)に充てることで、残業時間も大幅に削減できました。現場監督3名程度の工務店で、年間1千万円程度のコスト削減ができると試算しています。

メリットは残業時間の削減だけではありません。顧客との打合せなど着工前の工程にこれまで以上に時間をかけられることで、精度の高い図面を作ることができます。これによって、工事の作業効率は良くなり、顧客の満足度も上がります。Log Systemは、発売から2年で、約180社・全国で2万の現場で使われています。ハウスメーカーや地場大手ビルダーでの全国採用も決まっており、使用現場数が日々増加しています。

冒頭のecomoのオフィスは、このようなDX化を進めた結果です。DX化するにつれ、オフィスからは、紙の図面がなくなり、定規がなくなり、ペンがなくなり、決められた席がなくなりました。パソコンとiPadがあればどこでも仕事をできます。打合せはすべてオンラインで行い、一度も対面で会ったことがない顧客や職人も多くいます。ecomoは、log buildが考える10年後の工務店の姿です。

業界をDX化する

「自分は地域の工務店がいい。ecomoを大きくすることは考えておらず、log buildで建設業界のDX化を進めていきたい。」と、中堀社長は話します。打合せから現場管理、アフターサービスまですべてがデジタル化された建築会社を意味する「Smart Builder(スマートビルダー)」を提唱し、建築会社の経営者などに向けて講演してきたのもそのためです。

講演で語るのは、建設業界の未来、業界のDX化

次に考えているのは、協会の立ち上げです。地域の工務店に会員になってもらい、ecomoのビジネスモデルをすべて伝え、業界全体をDX化していきます。もちろん、開発も進めます。現在は、AIで建設現場を画像解析し、工事の進捗を管理するシステムを開発中です。これも、ecomoで実証し、ゆくゆくはゼネコン・土木・ハウジング・リフォーム・リノベーションなどの領域に広めていきます。

log build COOの國吉さんは次のように言います。「コロナ禍により移動の概念が変わり、オンラインが当たり前の世の中になりました。しかし、依然として建設業界では現場に行くことが当たり前のままです。0-100で全てをリモート化するという考えでは無く、ハイブリッド化した生産性の高い現場管理が圧倒的な人手不足の建設業界に必要です。」

DXにより、10年後の建築会社のカタチを示してくれるecomo、そして建設現場の遠隔管理を広げるlog buildの動向に注目です。

log build 8人の創業メンバー

(画像提供:株式会社log build)

-編集後記-
取材中、「社長が出航させた船に、一人また一人と乗り込んで始まった冒険がlog buildです。漫画みたいな話です」と冗談めかして話してくれた中堀社長と國吉さん。DXを強力に進めながらも、人間力や遊び心のようなどこかアナログな魅力も感じる企業でした。

【企業概要】
株式会社log build
代表者:中堀 健一
所在地:
・横浜オフィス 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-7-1WeWork オーシャンゲートみなとみらい8階
・藤沢オフィス 神奈川県藤沢市城南4-1-9

DXに関する取組

関東経済産業局では、地域企業のDXを推進するために自治体、産業支援機関及び金融機関等と連携し地域中小企業を対象にデータ活用人材を育成する取組を令和3年度より実施しています。
加えて、本事業終了後も各地域においてデータ活用人材の育成支援が展開されていくことを目指し、連携団体のコーディネーターを対象に、データ活用人材の育成ノウハウを習得できる支援人材育成研修も令和4年度より実施しています。

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