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事業再構築補助金を活用したEV向け新製品製造へのチャレンジ~単一市場からの脱却と新たな市場獲得へ~

事業再構築補助金は、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するための新たなチャレンジを応援する補助金です。
具体的には、新たな製品・サービス等を製造・開発等することにより、主たる業種を変更するといった「業種転換」、主たる業種又は主たる事業を変更することなく新たな製品・サービス等を製造・開発して新たな市場に進出するといった「新分野展開」など、企業に新たな付加価値を生み出し、賃上げなどに繋がる取組を支援するものです。
コロナ禍による売り上げ減少に直面したピンチを乗り越えるために事業再構築補助金をどう活用したのか。アフターコロナにおける新たな成長に向けて、どのように活用しているのか。第一歩を踏み出した事業者の挑戦を紹介していきます!

株式会社JSTは、1952年に先代である秋山文作氏が創業した金属加工事業者です。秋山文作氏が航空機部品を製造する会社に勤めていた経験から、様々な部品の組立や金属加工を行っていましたが、世の中に出回っている多くの部品がプラスチック素材に変わり始めたことに危機感を覚え、1970年にプラスチック素材に変わることはない「シャフト」専業に事業を転換しました。社名のJSTは、J:じょうずに、S:シャフトを、T:つくる専門工場の略であり、現在に至るまで「シャフト」加工の専門工場として自動車部品を支えています 。※シャフトとは、エンジン、モータ、ポンプなどの動力を伝える回転軸のこと。

同社は、10年以上前からEV化を見据え、EV車でも使用されるシャフトについて受注を拡大させるなど対応していましたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、主要取引先からの発注が大幅に減少し、苦しい状況に陥りました。そのような中、シャフト製造で培ってきた強みを活かし、新しい顧客・市場を開拓し、新たな付加価値を付けた製品を提供しようと新事業にチャレンジされています。新事業へのチャレンジを決断した背景などについて、秋山 哲也 代表取締役社長にお話を伺いました。

30年超のベテラン設備を含め135台の設備を保有。エンジニアからのあらゆる課題や要望に応えるシャフトを製造。

-どのような経緯で事業の再構築にチャレンジしようと考えたのでしょうか?

当社は10年以上前からEV車向けシャフトの製造に携わってきました。当社の技術力が主要取引先(A社)から高く評価されていたことに加え、自動車のEV化は需要も多く、A社からの注文によって順調に事業拡大を続けてきました。しかし、新型コロナの影響によりA社からの注文が大幅に減り、創業以来の危機的な状況に陥りました。注文の大幅な減少は、EV車向けシャフトに経営資源を集中させていたために起こったことで、大半の売上をこの製品で確保してきた当社にとってはかなりの痛手でした。A社の要求に応えていたことで売上は年々増加していましたが、コロナ禍を経験して、今後も安定的に事業を継続していくためには、製品や取引先を1者に集中させるのではなく、複数の製品により市場を獲得する必要があると考え、事業の再構築を決意しました。

-新たな市場を獲得するためにどのような「事業再構築」を考えられたのですか?

我が社で「なにができるか?」を考えた時に、やはり「シャフト」専門業者として培ってきた技術力こそが我が社の強みであることに立ち戻り、「eAxle用シャフト」の製造に着目しました。「eAxle」は、モータ、インバータ、減速機を一体化させて、自動車の軽量化、コストダウンを図ったものです。今までは、モータなどがそれぞれ独立していたので、連結や配線で多くのスペースやコストがかかっていましたが、一体化することでそれらの問題を解決することができるので、電動車両における駆動システムの主流となっていくものと考えられています。
国内市場はまだまだこれからですが、実際に日本大手メーカーが中国で量産を始めているなどの動きもあります。70年を超えるシャフト製造で培った高度な切削技術や研削技術を活かしつつ、eAxle用シャフト製造に取り組む事業再構築が当社にとって合理的であると判断しました。

-事業再構築補助金を活用することとなった経緯、事業の進捗について教えてください。

関東経済産業局のメールマガジンがきっかけで、事業再構築補助金を知ったと記憶しています。コロナ禍で苦しい状況の中で「eAxle用シャフト」の製造事業を検討していましたし、この事業を実現させるための設備導入にも費用がかかるので活用しようと思いました。
また、現在の事業の進捗ですが、早くも具体的な製品開発の相談をいただいています。すぐに量産とはいきませんが、eAxle市場も大きいのでいずれ忙しくなると予想しており、しっかりと対応ができる体制を整えている段階です。

-事業再構築補助金を活用することでのメリットはどのような点でしょうか?

補助金額が大きいことは大きなメリットだと思います。コロナ禍で業況が厳しい中でのチャレンジなので、大きな金額での支援は後押しになりました。もう一つ重要なメリットがあって、事業計画として書き出すことで、私の頭の中の考えを整理できたことと、事業計画を作成するために情報収集をしっかり行う必要があったことです。新しいことをやろうと決断したとしても、計画書として書き出すことと頭の中で考えているだけでは全然違います。
EV市場が今後どう成長していくのかといった情報については、常にアンテナを張っていますが、事業計画書を作成するとなるといつも以上に論文をしっかり読み込みます。その結果、市場をしっかり理解することにつながりますし、新事業をどう戦略的に展開していけば良いのかが根拠を持って整理することができました。

-新たな市場や顧客に製品を届けることにチャレンジをされていますが、アフターコロナに向けて考えていることはありますか?

補助金活用のチャンスがあれば設備投資をして、新たな事業へのチャレンジはしていきたいです。また、今取り組んでいる仕事の質をもっと上げていきたいです。様々な機械設備を保有していることは当社の強みになりますので、検査装置やバリ取り装置は精度の高いものがあれば導入していきたいです。
なお、シャフト製造の技術やノウハウは自動車市場だけでなく、農業機械分野や食品製造機械分野などの新しい分野でも活用できると考えています。今まで自動車部品に携わっていなかった事業者の方々ともEV関係の仕事を一緒にしたいと思っています。我々の技術を活かし、新しい連携相手と協業することで、成長産業に当社の付加価値ある製品を広げていきたいと考えています。

■企業概要
 株式会社JST
 代表取締役社長 秋山 哲也(あきやま・てつや)
 埼玉県熊谷市上之2961-6