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経営革新計画を活用した新事業へのチャレンジ~ブレない心のよりどころを創る~

経営革新計画では、創意工夫を活かした新商品・新サービスの開発や新たな生産方式の導入などの新事業活動に取り組む事業者が、経営革新計画を作成し、国や都道府県の承認を受けることで、日本政策金融公庫の特別貸付制度や信用保証の特例など多様な支援を受けることができます。令和5年3月末時点で全国10万以上の事業者が経営革新計画の承認を受けており、多くの事業者が新事業活動にチャレンジする際に活用しています。施策見聞録では、経営革新計画を企業の成長のためにどう活用したのかを中心にご紹介して参ります!

今回は東京都台東区に本社を構える『白山印刷株式会社』小林剛社長にお話を伺いました。白山印刷は、UV印刷(紫外線照射による印刷)や箔転写やホログラム転写など多種多様な特殊印刷・加工を得意としており、平成30年に経営革新計画の承認を受けました。令和4年度には文字・立体図形情報を同時に印刷し、共用品※市場向け点字特殊印刷の事業化による売上向上が評価され東京都より経営革新優秀賞を受賞しています。
※共用品:障害のあるなし、年齢の高低、言語の違いなどに関わらず、共に使える製品やサービスのこと

-印刷業界で生き残るためにどのような戦略を展開されているのでしょうか?

 当社は昭和46年に設立され、今年で創業52年になります。同業印刷大手からの下請けがメインではありましたが、小ロット中ロットを中心したニッチな市場を開拓し、競合他社との差別化を図っています。印刷業界は一般的に菊全判サイズ(636mm×939mm)の印刷機が主流だったのに対して、当社は10台以上あるすべての印刷設備をその半分の菊半裁サイズ(469mm×636mm)の印刷機に統一するという業界では珍しい企業でした。
 そもそも印刷業界は生産性の高い菊全判サイズを中心に幅広く導入されており、経営資源が大きくない中小企業が印刷機だけで付加価値を出していくには難しい業界です。当社の菊半裁サイズの強みに特化した業態は、菊全判サイズ中心の印刷企業にとっては参入障壁が高く、見落とされがちな分野でしたので差別化の意味でも当社はそのニーズに対応していました。その後、菊半裁サイズの印刷だけでなく印刷から特殊加工製品仕上げまでワンストップで行う製造業態へとシフトして行き、現在では新たに加えた特殊印刷・加工が販売のメインとなっています。
 業態を変えても「オンリーワンの企業になる」という考え方は創業当時と変わらず、当社の強みを最大限生かせる市場で事業を行っています。

白山印刷の加飾技術を詰め込んだ製品の数々

-経営革新計画を活用されていますが、そのきっかけや苦労された点を教えてください。

 経営革新計画は、ちょうど私が取締役社長に就任した時期(2018年)に作成しました。ペーパーレス化の加速により、本業であった「情報を伝える役割」という意味での商業印刷の市場規模も縮小傾向にあったため、抜本的に業態を変えていかなければならないことを考えていた時期でもあります。
 そのような中、取引のある信用金庫から紹介していただいた中小企業診断士の方から経営革新計画を作らないか?とお話があり、その方に支えてもらいながら計画を作成しました。当社にとっては、経営革新計画を作成することで、厳しい経営環境の中、今後の新事業への取組や経営の方向性を整理することにつながると共に社員へ事業転換の理解を求めるという意味において、まさに当社の事業計画書を作ることとイコールのような位置づけでした。
 当社が生き残りをかけて事業転換をしていくにあたり、社員やお客様、取引金融機関などに今後の道筋を納得していただくには、しっかりとした考え方を示す必要がありました。そのため、経営革新計画の作成にはかなりの時間をかけました。作成を進めていくうちに成果重視の考え方になってしまい、私たちの本当にやりたい事業計画から逸れてしまったり、計画のつじつまを合わせるために無理のあるシナリオになってしまうこともありました。
何度も見直し、考え抜いた結果としてできあがった経営革新計画は、経営を行っていく上でとても重要な指標となりましたし、経営にブレをつくらない、「心のよりどころ」になったと思っています。

-計画実施期間はちょうど新型コロナウイルスが流行していた時期ですね

 新規事業としては、特殊印刷業として戦っていくための一つの柱として、2018年に共用品市場向けの特殊印刷(有版加飾印刷+無版点字印刷)の事業化に向けた取組みを計画し、健常者と視覚障がい者・ロービジョン者(低視覚者)が情報を共有できる製品を事業化していくことを目指しました。社内で自分たちが持つ美粧性を出せる技術や機械を活用できる市場を考えた結果でした。
 特殊印刷・加工は製品の特徴上、イベント等のグッズに採用されやすいものですが、当時はコロナの影響もありイベントは軒並みなくなってしまいました。既存事業の受注も減っており、経営状況は非常に厳しかったです。

 社内からは「受注は減っているが、仕事は確実にある既存の下請け事業を主に頑張るほうがいいのではないか。」という意見もありました。しかし、実際に仕事が減ってきている現状と将来を考えたときに、ここで変わらなきゃいけないと思いました。コロナ禍で唯一良かったことは、社員全員が大きな危機感を持てたことでしょうか。それがあったからこそ思い切った事業の改革に踏み込むことができたと思います。
 その中でも新技術を生かした、墨字と点字が一体となったユニバーサルデザインを印刷することのできるDigi・Pokoシリーズの「Digi・Pocoプレイル」は、東京都のトライアル発注認定制度に認定され、東京オリンピックの点字パンフレットに採用されました。東京オリンピックは後にも先にもないような大きな市場でしたが、コロナ禍による無観客開催の影響もあり、結局、当初の予定から大幅に発注は減少しました。しかし、こうした実績は近年企業に求められるダイバーシティの考えとも合致しており、新たな仕事やつながりができたとも感じています。

特殊な製法による点字印刷技術を活用した「Digi・Pocoプレイル」。日本工業規格(JIS-T9253)を満たしています。

-今後、御社はどういった企業を目指していきたいですか。 

 特殊印刷・加工を生かしていく上で、今後は国内のみならず海外マーケットのカードゲーム市場なども視野に入れています。ただ機械的にカードを何千何万枚印刷するのではなく、当社が目指すのは商品やターゲットを絞り、他社との差別化を図りながら印刷・加工する会社です。
 先代の意向もありますが、「印刷業」という看板にはこだわりたいです。電子化が進む昨今において、業界がどんどん縮小するのは分かりきっていますが、印刷業界からは離れず「まだ印刷業やっているの?」と言われても胸を張っていけるような会社になりたいですね。

【企業情報】
白山印刷株式会社
取締役社長 小林 剛
本社:東京都台東区台東1丁目27番10号 第2成瀬秋葉原ビル3階
 八潮第1工場:埼玉県八潮市大曽根1321
 八潮第2工場:埼玉県八潮市木曽根706-1
 八潮第3工場:埼玉県八潮市大曽根1272-1