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事業再構築補助金へのチャレンジがもたらした成長への歩み~補助金活用のメリットは社内外に自信をもって示せる「事業計画書」を作れること~

事業再構築補助金は、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するための新たなチャレンジを応援する補助金です。
具体的には、新たな製品・サービス等を製造・開発等することにより、主たる業種を変更するといった「業種転換」、主たる業種又は主たる事業を変更することなく新たな製品・サービス等を製造・開発して新たな市場に進出するといった「新分野展開」など、企業に新たな付加価値を生み出し、賃上げなどに繋がる取組を支援するものです。
コロナ禍による売り上げ減少に直面したピンチを乗り越えるために事業再構築補助金をどう活用したのか。アフターコロナにおける新たな成長に向けて、どのように活用しているのか。第一歩を踏み出した事業者の挑戦を紹介していきます!

FSX株式会社は、1967 年におしぼりのレンタルサービス(貸おしぼり)業として東京都国立市で創業しました。飲食店やホテル等で使用される布製おしぼりを顧客に貸与し、使用後に回収・洗濯し再度貸与するという業務で、顧客規模は約4,000件にも上り、現在も同社の主要事業です。
近年は、天然アロマオイルを配合した使い切りおしぼりの開発や、ウイルス・菌を99.99%以上抑制する特許技術『VB(ブイビー)』を使用したおしぼりの提供、おしぼり冷温庫 『REION』の開発を行うなど「おしぼり」を軸として多岐に渡る事業活動を展開しています。日本文化のおしぼりから世界のOshiboriを目指し、海外の市場開拓にチャレンジするなど、「おしぼりを再発明する」をビジョンに掲げ日々挑戦をする社風が特徴です。
同社は、おしぼりの伝統を守りながらイノベーションを起こそうと日々取り組んでいましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって布おしぼりの需要が落ち込み、使い切りおしぼりの需要が増えたことを機に、主力商品であるポケットおしぼり(使い切りおしぼり)を化粧品グレードとして製造し、国内化粧品市場および海外市場への展開を目指すべく、事業再構築補助金を活用しました。
新事業へのチャレンジを決断した背景や、補助金を活用して会社にどのような変化が起こったかなどについて、藤波 克之 代表取締役社長と秋葉 勝 専務取締役にお話を伺いました。

藤波 克之 代表取締役社長(写真・右)と秋葉 勝 専務取締役(写真・左)

-新事業はどのような経緯で生まれたのでしょうか?

コロナ禍以前から、AIや自動運転など技術革新が進んでいる状況下で、おしぼり業界も現状の製品やビジネスモデルから変化がなければ将来の展望は厳しいだろうという危機感を抱いていました。国内における新市場の開拓や海外進出が必要だと考えており、その突破口として、おしぼりを今までの「雑貨品」から「化粧品」として位置づけたうえで、国内外の新市場に販売していくことに可能性を見出しはじめていました。

-なぜ「化粧品」としての取扱いを目指したのですか?

当社では、ウイルス・菌を99.99%以上抑制する特許技術『VB(ブイビー)』を使用したおしぼりを製造・販売しているのですが、ある日、歯医者さんから「VB配合のおしぼりで口周りを拭いても大丈夫ですか?」と問い合わせがありました。しかし、当社のおしぼりは法令上、「雑貨品」扱いのため、手以外の部位に使うことを謳うことが出来ず、「口を拭いても大丈夫ですよ。」という回答ができませんでした。また、海外へおしぼりを輸出する際にも、人の体を拭くものとして使用する場合は、化粧品として輸出することが必要となります。
そこで、「雑貨品」から「化粧品」に位置づけを変え、「おしぼり=手を拭くもの」から、顔、体など手以外の体の部位にも使え、おしぼり本来の使い方により近づくことをさらにPRできれば、おしぼりの新たな販路や市場が開拓できると考えました。

-新たな販路や市場開拓の可能性を見出し始めた直後に、新型コロナウイルスが蔓延しましたね。

コロナ禍で状況が一変しました。コロナ禍の初期は、飲食店や旅館などで貸しおしぼりから、使い捨てタイプの紙おしぼりに変更する動きが見られました。さらに抗ウイルス・抗菌へのニーズが高まったこともあり、「VB」を配合したおしぼりなど、高機能で良質なおしぼりが受け入れられ、通常よりも高価格の当社商品が予想以上に売れました。しかし、2020年4月に緊急事態宣言が発令されてからは、おしぼり業のメイン顧客である飲食店や宿泊業が休業となった影響で売上が減少し、我々も厳しい状況に陥りました。

-抗ウイルス・抗菌おしぼりの需要はありましたが、それ以上に飲食店などの休業の影響は大きかったのですね。この逆境の状況下にあって、化粧品として販売するという新事業にチャレンジされたのはなぜですか?

マイナス金利政策が続き資金調達がしやすい間に、新事業へのチャレンジや社内改革を進めていきたいという想いがありましたが、コロナの影響もあり資金繰り等が厳しくなってしまったので、新事業を諦めておしぼりレンタル事業に回帰しようとも思いました。
しかし、日本経済だけでなく世界が危機的な状況だからこそ、企業を成長させる芽を出すことが経営者の使命であるという強い思いを抱き、新事業に取り組むことを決断しました。そのような中、知人から事業再構築補助金に関する情報提供を受けたこともあり、当社も新事業にチャレンジしようとなりました。

-具体的にはどのようなお取り組みに挑戦されるのですか?

閉鎖していた山梨県上野原市の工場のリノベーションを行い、新たに化粧品製造免許を取得し、現在当社の主力商品であるポケットおしぼりを化粧品グレードとして製造できるラインを構築した上で、抗ウイルス・抗菌技術「VB」から派⽣した新たなヘルスケアブランドとして発売する予定です。化粧品として製造することで、日本国内においては「手を拭く以外にも利用できます」などPRが可能となりますし、アメリカをはじめとする現地薬事法規制をクリアすることで、海外市場への展開も可能となります。今回の補助金を活用して化粧品グレードの生産ラインの整備と、使い切りおしぼりのより一段階進んだブランド構築やマーケティングに取り組んでいきます。更に、ポケットおしぼり生産で培ってきたノウハウや抗ウイルス・抗菌技術「VB」に関する特許、これまで構築してきたブランドイメージなど、当社が持っている強みを活かして新分野への展開に挑戦していきます。おかげ様で生産ラインの整備も順調に進んでおり、アメリカの法規制のクリアに向けて連日専門家との打ち合わせに勤しんでいます。

-事業再構築補助金を活用して、新事業にチャレンジしたことのメリットはありますか?

事業再構築補助金は、補助金額が大きいことがメリットの1つだと思いますが、最大のメリットは事業計画書を作成するプロセスを通じて、新事業の全体像をしっかりと整理していくことができることです。当社の担当者はかなり苦労したと思いますが、新事業について書き表すことで頭の整理ができましたし、新事業について対外的に示せる計画書ができたのは当社として非常に意義がありました。メインバンクに対しても事業計画書を示すだけで、当社の現状から今後の方向性まで具体的に伝えることができ、内容に説得力もあるので、新事業に対してもスムーズにご理解いただけたと思っています。新事業は順調に準備が進んでおり、まもなく化粧品製造の工場が稼働する予定です。
また、新事業とは別に検討していた当社の事業再編という大きな出来事についても、金融機関の心配を払拭することができ、無事、実現に至りました。

-補助金の計画を考えることは、会社全体の方向性を整理することにも繋がるのですね!

社内でも良い変化がありました。雑貨ではなく化粧品グレードの商品を製造するという会社の方向性を明確化できたことで、社員のモチベーションが高まったように思えます。皆、化粧品グレードのおしぼりを製造・販売できる日が来るのを楽しみにしていますよ。会社の方向性を示すことで、会社や社員がより良い方向に進み始めることができたのは大きな収穫ですね。
モチベーションが高まった結果として、部門同士のコミュニケーションが密になりました。これまで以上に、部門同士でよく話すようになり、繋がるようになりました。これまでは、ある部門から「ここまでしかできない」という意見が出て、別の部門は「もっとこうしてほしいのに、なぜできないの?」と意見がぶつかっていました。しかし、今は「ここまでならできる」と、それぞれが歩み寄って、少しでも前に進もうという雰囲気になっています。社員が自分事として捉え、アイデアが活発に出てくるようになったので、お互いの想いを汲みながら話し合いをするという流れができました。こういった風景は10年前にはなかったものです。新事業を進めていく上で社内に良いイノベーションが生まれたと思います。
また、今回の新事業が動き出したことで、各部門リーダーの責任感が増し、個人の成長に繋がっています。これまでは経営層による指示で業務を進めてきましたが、新事業は工場・ブランド・人事すべてが関わる一大プロジェクトです。各部門でしっかりと計画を推進しており、良い循環を生んでいるように感じます。現在はリーダー層まで成長志向が浸透してきたところですが、できれば全従業員が同じ想いを持って成長志向でいられると一層良いですね。

FSXの主力商品 ポケットおしぼり 左:AROMA premium 右:HAND&BODY

ー会社全体が、成長に向けて歩み始めているのが伝わってきます。補助金は、お金以外にも多くのことが得られるということですね。

コロナ禍は売り上げが減少し、当社にとっては苦しい期間でもありましたが、コロナ禍の3年間で、会社を成長させていく芽を出すためにやりたいこと・やるべきことの全てに取り組むことができた気がします。また、製品開発だけでなく、組織内部にも目を向け、改革に着手することができました。
今、振り返ってみると、会社が成長への階段を1段昇ることができたきっかけは、事業再構築補助金への挑戦を進めたことだと思います。
補助金の申請を機に自社を見つめ直し、自社のやりたいことについて根拠をもって説明することが出来るようになったことは今後会社を成長させていくにあたって大変意義のあることです。事業再構築補助金は、資金面での支えになるだけはなく、会社の成長のために何が必要かを考えることが出来るとても良いツールだと感じています。

■企業概要
 FSX株式会社
 代表取締役社長 兼 CEO 藤波 克之(ふじなみ・かつゆき)
 東京都国立市泉1-12-3