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失敗を重ねた先に成功がある!100%業態転換を実現した社長の“情熱”

経営者の情熱を発信していく“Project CHAIN”。第5回目は、神奈川県藤沢市にある株式会社バイオクロマトの木下一真社長です。同社は国内外の大学や研究所に対して、理化学機器、分析機器の企画製造販売等を行っており、研究者のニーズを的確にとらえた画期的な商品を数多く開発、20か国以上に輸出しています。
元々は理化学機器販売の商社(のちに半導体製造装置関係の商材をメインに扱う商社)でしたが、木下社長就任後に自社ブランドを有する企画製造販売企業へと100%の業態転換を図り、順調に成長しています。今回は商品開発や海外展開において成功を収めている秘訣や、木下社長が考える経営者にとって最も大事な資質等についてお伺いしました。

幼い頃から当然会社を継ぐと思っていた。紆余曲折を経て2代目が社長に就任するまで。

-バイオクロマトに入社するまでの経歴について教えてください。

弊社は元々、父が創業した半導体製造装置関係の下請商社でした。幼い頃から、当然自分が会社を継ぐものだと思って、学生時代も全く就職活動をしていませんでしたが、大学4年時に父から「お前就職どうするんだ」と突然言われました。外で修行してこいというメッセージだと受け取り、慌てて就職活動して、化粧品メーカーの営業職に就職しました。化粧品メーカーで2年働いた後、父から「戻ってこないか」と言われ、弊社に入社しました。
弊社入社前に、バックパッカーとして20日間ヨーロッパを旅したのですが、これが大きな転機になりました。それまで、私は海外旅行の経験が一切なかったのですが、行きと帰りの航空券だけ買って道中はノープランで旅行に行きました。初日から詐欺まがいの出来事にあったりもしましたが、本当に楽しかったですね。バックパッカーを経て、自分の世界が広がり、度胸が付きました。この経験は、その後の新商品開発や海外展開に活きていると思います。

-バイオクロマト入社後は、どのような業務に携わっていたのですか。

入社後は、営業部長として福岡営業所の立ち上げ等に携わりました。ただ飛び込み営業するだけではお客様には会ってもらえないことも多いので、どうやったら取引できるか、ものすごく考えましたね。結果として1年で約80社の新規顧客を獲得することに成功しました。

インタビュー中の木下社長。化粧品会社時代のお話、バックパッカーの経験など、ユーモア交えながらお話しいただいた。福岡営業所の立ち上げに携わった際は、九州全域を飛び回り、1年間で約4.5万km(地球1周以上)走行したとのこと。

苦難の連続だった自社の商品開発、海外展開。事業が花開くまで。

-営業部長として実績を積まれてから社長に就任されたのですね。先代から依頼されての社長就任だったのでしょうか。

いいえ、先代に対しては「早く自分が社長に就任して自由にやりたい」と言い続け、2000年に入社して6年後の2006年にようやく社長に就任することができました。入社直後の2000年はITバブルで、半導体関係の商社だった弊社は絶好調でしたが、2001年にITバブルがはじけた後は、価格競争がより一層シビアになり、弊社の売上も前年度の半分にまで落ち込みました。その際、「このまま価格競争に巻き込まれれば、消耗戦になるだけ。ビジネスモデルを転換し、自分たちにしか作れないものを提供しない限り、10年後は無い。」と思い、早く社長に就任して自社商品開発に取り組みたかったんです。
しかし、社長就任後は苦難の連続でした。リーマンショックの際には売掛金が焦げ付きましたし、長年の取引先から契約を打ち切られたりもしました。そうした状況の中で何とか商品開発の資金を貯め、2011年頃から本格的に自社商品の開発に乗り出しました。自社商品の売り上げが軌道に乗るまでは、取引先の他、従業員や先代からも「社長が何をやりたいのか理解できない。」と言われ、大反対されました。

-どうやってその状況を打破されたのですか。

成功するまで続ければ良いと考え、商品開発を辞めようとは思いませんでした。最初はお願いする人もいなかったので、研究現場からいただいたニーズを受け、自分で定規を片手に設計・試作しました。
販路拡大のためには、まずは弊社を知ってもらうことが重要だと考え、数万円の安価な消耗品の開発に着手し、自社のブランド力を付けるところから始めました。消耗品が売れ出した後、段々と単価の高い商品開発にも取り組んでいきました。そうして開発した主力製品の一つであるコンビニ・エバポシリーズは、国内のほぼすべての理工系大学と大手企業の研究部門に納入していて、20か国以上に輸出しています。

試料前処理時間を短縮したコンビニ・エバポシリーズや、揮発性成分である香りをリアルタイムで“見える化”するVolataime shipなど、研究者のニーズに応えた製品を多数開発。各商品のキャッチコピーは社長が考案。(画像提供:株式会社バイオクロマト)

-コンビニ・エバポシリーズを始め、多くの製品を海外に輸出されています。海外展開はどのように発展させていったのですか。

商品開発に取り組み始めた頃から海外展開すると決めていたので、経営が苦しかった時期も、海外展示会に自社ブースを出展し、積極的にPRを続けていました。毎年数千万円~数億円近いお金をかけていましたね。初めは全く成果が出ませんでしたが、ある日突然海外大手メーカーの日本法人からお問い合わせいただきました。理由を聞いてみると「どの展示会にも出展していたから良い商品なのだと思った。」と言われ、私の考えは間違っていなかったのだと思いました。

-海外展開していく中で、思わぬハプニングはありましたか。

ハプニングは本当に色々ありましたね。依頼していた運送会社が商品を運んでいる途中で倒産して、200万円以上する商品が戻ってこなかったり、輸出の際の書類の書き方が良くなくて必要以上の関税を取られたり…。でも、そうした経験もすべて次に繋がるので、失敗しても問題ないと思っています。コロナが収束しつつある今、もう一度海外展開に力を入れていきたいです。

情熱があるからチャレンジし続けられる。

-これまで色々な経験をされてきた木下社長が考える、経営者にとって最も大事な資質は何だと思いますか。

“情熱”です。これまで何度も失敗を重ねてきましたが、失敗してもチャレンジし続けることができるのは、情熱があるからだと思います。情熱に加えて、クレバーさ・冷静さも兼ね備えていると、なお良いですね。私も入り込みすぎないよう常に状況を俯瞰するように心がけています。

-今後チャレンジしていきたいことはありますか。

社内・社外を問わず、チャレンジ精神旺盛な社長を育成していきたいです。高品質な製品・サービスを提供するためにディテールを追求することも時には必要だとは思いますが、ニーズの本質を見極め、新しい市場・売場を切り開いていける社長を作ることが、今後の日本の発展のために必要不可欠であり、日本の未来に繋がると考えています。私自身も0から1を生み出す作業が好きなので、そういったチャレンジ精神溢れる人を応援していきたいです。

バイオクロマトが掲げるビジョン。「日本のモノづくりを世界へ発信し国内外に新たな市場を作りたい」という木下社長の思いが込められている。ロゴやビジョンは社内で一からデザイン・作成。

【企業情報】
 株式会社バイオクロマト 
 代表取締役社長 木下 一真(きのした かずまさ)
 神奈川県藤沢市本町1-12-19

-編集後記-
取材の際、バックパッカー先での色々な体験や、海外展開時の失敗談等、様々なエピソードをユーモアたっぷりにお話しいただき、時間を忘れて聞き入ってしまいました。多くの失敗談が出てくるのは、それだけ木下社長がチャレンジし続けてきた証だと思います。また、苦しみながらも100%業態転換に成功した木下社長に対して、創業者のようなスピリットを感じました。

                          担当特派員 MY