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経営革新計画が「経営目標」の大切さを知るきっかけに~自社ブランド立ち上げで下請けからの完全脱却を実現!~

経営革新計画では、創意工夫を活かした新商品・新サービスの開発や新たな生産方式の導入などの新事業活動に取り組む事業者が、経営革新計画を作成し、国や都道府県の承認を受けることで、日本政策金融公庫の特別貸付制度や信用保証の特例など多様な支援を受けることができます。令和5年3月末時点で全国10万以上の事業者が経営革新計画の承認を受けており、多くの事業者が新事業活動にチャレンジする際に活用しています。施策見聞録では、経営革新計画を企業の成長のためにどう活用したのかを中心にご紹介して参ります!

株式会社秀隆は、代表取締役である松永秀夫氏が、親戚の人形工房で10年修行し、昭和60年に独立開業した江戸木目込人形を製造販売する企業です。「木目込人形」とは、桐塑(とうそ)で作ったボディにヘラで溝を掘り、溝へ布を着せ付ける(木目込む)人形のことです。「衣装着人形」に比べ、コンパクトで丸みを帯びていてかわいらしく、飾りやすいのが特徴です。創業以来、大手メーカーからの請負で節句人形の製造を行ってきましたが、近年の少子化の進展やマンション居住者の増加といった住宅事情の変化などから、節句人形の売り上げが減少し、今後の回復は見込めない状況となりました。そこで、企画・製造・販売を一貫して手掛ける自社ブランドの立ち上げという大胆な事業転換に挑戦します。自社ブランドを確立していく過程で、経営革新計画をどのように活用したのか、松永秀夫氏とご子息でCBO/ブランド責任者の松永祐人氏のお二人にお話を伺いました。

-自社ブランド立ち上げまでの経緯についてお聞かせいただけますでしょうか。

秀夫氏:従来の製造請負では今後の売り上げ増加が見込めないのは明らかでしたので、現代のニーズに合った自社ブランドの立ち上げにチャレンジしました。節句人形は、通常分業制となっていて、企画・製造・販売はそれぞれ専門の企業が担い、製造に関しても頭部・胴体・装飾品などを専門の職人が手分けして製造しています。当社では、製造請負をしていた際に企画から手がけていたので職人との繋がりがあり、また、自社店舗での販売も実施していたことから、企画・製造・販売を一貫して行うノウハウを持っていました。まずはテスト販売を行ったところ好評でしたので、現代の住宅事情に合わせた小さくて扱いやすい、多少値段は高くても高品質な自社ブランドを本格的に立ち上げました。今では製造請負は行っておらず、100%自社ブランド品を製造・販売しています。

祐人氏:ブランド立ち上げ当時はまだ会社を継ぐつもりはなく、サラリーマンをしていたので、二足のわらじでプロモーションを担当することになりました。予算に限りがあったため、インスタグラムを活用し、自分で「映える」写真を撮影して掲載しました。節句人形購入の主導権を握っているのは、実は子供の母親です。母親の目に止まれば、実際に節句人形を購入する祖父母に情報が伝わるので、20代後半~30代後半の女性をターゲットにした戦略を考えました。インスタグラムで宣伝し、リンクから自社ECサイトを覗いて頂く形です。ただ、高価なものですし、どうしても実物を見たいという希望もあったので、近場であれば来店でき、遠方であればサンプルの人形を送ることにしました。

店舗内の様子。「可愛らしさとたくましさ」にこだわった五月人形が並ぶ。

-どういったきっかけで経営革新計画を策定されたのでしょうか。

秀夫氏:下請けを脱却し、自社ブランドを収益の柱にするというのは大変なことなので、しっかりと計画を立てて進めていく必要があるという認識を持っていました。そんなときに県のHPで経営革新計画を知り、収益事業への転換という経営革新に取り組むにあたって最適な制度だと思い、早速さいたま商工会議所に出向いて相談しました。策定にあたっては、まず自分で構想を立てて、それを商工会議所のサポートを受けながら文章にし、計画の形に作り上げていきました。

-経営革新計画に取り組んでみて如何でしたでしょうか?

秀夫氏:計画策定は、経験のないことでしたので、商工会議所から丁寧なサポートを頂き大変助かりました。特に数値の部分の計画策定が難しかったです。これまでは大手メーカーとの取引でしたので、受注状況等からある程度先々の売上がはじき出せましたが、BtoCとなると、何を数値の根拠としたら良いのかが分かりませんでした。計画策定時に既にテスト販売をスタートしていましたので、そこでの手応えも考慮して、分からないところは逐一商工会議所の経営指導員に教えてもらいながら数値を作っていきました。この経験により、経営において具体的な数値として目標を立てることの重要性を知ることができました。

-経営革新計画を活用したことによる成果やお気づきの点があれば教えてください。

秀夫氏:経営革新計画を作る過程で、自社の課題や顧客のニーズは何か、突き詰めて考えるため、目標を達成するためには何を実行しなければならないのかが整理されて、事業に取り組みやすくなると感じています。従業員にも会社の将来像を示しやすく、一丸となって取り組むことができます。結果として、売上・利益ともに目標を大きく上回って伸びていき、売上は約2倍、経常利益は約10倍となりました。従業員も増やしています。

祐人氏:目標を達成するために、少ない人数で多くの顧客に対応することを念頭に置いて、販売方法をどのようなものにするべきかを考えました。自分達が適正だと思う価格で販売するために既存のプラットフォームには頼らず、自社でECサイトを構築し、そこに好みのお顔を選んだり、お人形の飾り台や飾りものを自由に組み合わせたりすることができるセミオーダーシステムを組み合わせることでオリジナルな販売手法を確立できたと思っています。

自社店舗については、スムーズに接客ができて、なおかつデザイン性の高い店舗に改装しました。店舗では、タブレット型のPOSシステムを導入し、誰でも接客ができるようにしてあります。
一方、店舗改装にあたっては、計画認定による支援策の融資制度を利用しようとしましたが、金融機関の担当者にはなかなか店舗改装の必要性を理解頂けませんでした。苦労して計画を策定してしっかり実行していても、外部からの評価はなかなか得られないと感じています。計画策定後の取組も含めて、外部からの評価が得られるような仕組みがあれば、もっと企業がやる気になるのではないかと思います。

自社ブランド「ひな雛」のひな人形。
セミオーダーでお人形や飾り台、屏風等を自由に組み合わせ可能。

-最後に、今後の展望についてお聞かせください。

秀夫氏:経営革新計画に取り組んでみて、事業計画の策定や策定時に自社の課題や強みを熟考することの大切さがよく分かりました。経営革新計画の期間は終了し、新規事業も軌道に乗っていますが、当社では定期的に数値目標も含めて計画を策定し、計画に対しての実績推移を確認、必要に応じて修正を加えるという流れが定着しており、今後も続けていくつもりです。

祐人氏:自社ブランドは運も味方して 好調に推移していますが、これ以上事業を拡大するには様々な投資も必要になってきます。今の事業の拡大を目指すのか、技術を活かして新たな事業に挑戦するのか、いろいろと考えていますが、まだ定まってはいません。海外での販売にもチャレンジしたいという想いはあります。そもそも日本のように初節句に節句人形を飾るという文化がない海外では、一から売り方を考える必要がありますが、チャンスはあると思っています。

【企業情報】
株式会社秀隆
代表取締役 松永 秀夫
埼玉県さいたま市見沼区蓮沼491-1

経営革新計画(中小企業庁のサイト)

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/index.html

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