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離脱者続出!を乗り越えて ~地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業~

関東経済産業局が実施する施策には、「現場」の実情を踏まえたオリジナリティの高い取組があります。それら施策に取り組む職員が思いや取組の裏側を語る、「施策の深層」。
第1回は、中小企業を対象に「データ活用人材」の育成を行い、地域企業のDXを推進している、デジタル経済課の藤田さとみさんに話を聞きました。

藤田 さとみ:地域経済部 デジタル経済課 係長

「ブートキャンプ」とは?離脱が多発した初年度 その原因と改善策

-藤田さんが所属する部署では、どんな政策を実施していますか

地域や中小企業などのデジタル化・DXを支援するため、環境整備を行うとともに、モデル性・波及性の高いプロジェクトを支援しています。また、サイバー攻撃による脅威が増大する中、中小企業の実態やニーズに合致したセキュリティ対策支援体制の構築支援などにも取り組んでいます。

-藤田さんが担当する地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業について、教えてください。

中小企業内のデータ活用人材を育成する研修事業です。また、支援機関に所属するコーディネータ等を対象に支援人材の育成も実施しています。

-「ブートキャンプ」を始めたのは2年前ですよね。この事業を始めたとき、事業者や支援者など、周囲の反応はどうでしたか

令和3年から始めたので、今年で3年目になります。
初年度、この取組を始める際、正直なところ、中小企業のデータ活用のニーズがどれくらいあるのか、我々自身、わかっていませんでした。
担当者としてこういう企業に参加していただきたいというイメージを伝えることができなかったし、企業側も「お試し」で参加していたので、実は、初年度は途中で離脱する企業が多数出てしまいました。

令和5年度地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業概要

-離脱する原因は、何だったのでしょうか

初年度は、当初27社から参加申し込みがあったのですが、最終的には14社に減りました。
この事業は3ステップに分かれており、ステップ1は座学から始めます。ステップ1時点で、デジタル化のイメージに違いがあるなど、我々が考えているデータ活用と参加企業が思っているデータ活用にミスマッチが出ました。そのため、多くの企業がステップ1の段階で離脱しました。
ステップ2では、社内に活用できるデータがない、社内体制が組めないといった理由での離脱があり、社内体制が構築できるかが鍵であることが判りました。
最後のステップ3では、データが少なく、十分な実証ができない企業が離脱しました。

-離脱者が出ないよう、2年目はどのような工夫をしたのでしょうか

まずは、既にDXに取り組んでいる、あるいは取り組もうとしている中小企業をターゲットにしました。本事業はデータ活用が主目的なので、DXに取り組んでいる企業であれば、社内に何らかのデータがあると思ったからです。加えて、データ活用にあたり、社内体制が構築できなければ継続が難しいので、参加企業には体制づくりもお願いしました。
また、「データ活用」のイメージにミスマッチが出ないよう、2年目は事業開始前にオリエーテーションを実施し、企業側の理解を深めるように工夫しました。
その結果、2年目の離脱は1社のみで、16社が最後まで残りました。

-参加にあたって企業側の体制づくりをお願いしたとのことでしたが、具体的に何をお願いしたのでしょうか

やはりトップがその気にならないと、会社全体の動きになりません。データ収集場面などで、システム部門などの他部署の協力も必要となりますので、経営層のコミットを必須としました。
また、本事業の参加にあたっては、1社から2名以上に参加してもらうようにしました。初年度に参加いただいた企業の中で参加者1名の企業があったのですが、担当者が転職してしまったため、取組が浸透・継続しなかったケースがありました。学んだ内容を社内で活用できないのは、もったいないと感じました。

目指すものは、地域への広がり

-担当者として、嬉しかったこと、やりがいを感じたことはありますか

参加企業から「ブートキャンプに参加して、○○ができるようになった!」といった声を聞くのが嬉しいです。
初年度も2年目もコロナ禍のため、ほぼオンライン上での活動でした。リアルと違って、顔の見えづらいワークショップは参加者の満足度が低くなってしまうこともあり、正直、本事業が地域にとってどんな意味があるのか疑問に感じたことすらありました。

ですが、参加した事業者に対しフォローアップ調査を実施したところ、社内で取組を継続していたケースのみならず、この事業がキッカケとなって、社内の他部署でもデータ活用のプロジェクトを広げていたケースがありました。このようなケースは、特に嬉しかったですね。

-では、この事業を進めるにあたって、苦労した点はありますか

地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業は、自治体や金融機関などの連携団体から参加企業を紹介してもらい、連携団体と伴走して企業支援する形態をとっています。そのため、我々と連携してくれる自治体や金融機関の発掘がキモです。

連携団体が紹介する企業次第で取組の質が変わりますので、連携団体の熱量で取組の成否が決まるといっても過言ではなく、年間スケジュールを踏まえて、適切な連携団体を見つけることに労力がかかります。

自治体や支援機関側には、伴走できる適切なコーディネータがいなかったり、マンパワー不足などで、お声掛けしても断られたりすることがあります。そのため、DXに関連したどのような取組を実施しているのか、同じ目線で支援できるコーディネータがいるのか、事前に自治体や支援機関側の事業内容等や事業計画などを調べてからアプローチするなどの工夫をしています。

-地域の連携団体を絡ませる意義はどこにありますか

企業に着目して支援してもよいのですが、それぞれの個社を支援するだけでは、データ活用が世の中に浸透していきません。中小企業のデータ活用を推進していくためには、地域で活動する自治体や支援機関と連携し、その方々が支援ノウハウを得て、それぞれの地域で支援していくことが重要だと思っています。その意味で、初年度から地域に根を張る自治体や支援機関との連携を大事にしています。

-今年は3年目となりますが、今年度の取組の方向性を教えてください

事業者に対する研修モデルは、ある程度、形になってきました。一方、地域への展開を想定すると、支援者の育成がまだまだです。昨年度、支援者向けの研修は2回しか開催できなかったので、今年度はもっと力を入れる予定です。

また、中小企業におけるデータ活用と言っても、業種や目的が違えば、必要な知識や取組内容も違ってきますので、個々の企業の取り組みを横展開するのは難しいです。そのこともあって、支援者側からみると、どのように支援したらよいのかわからないことが多いと思います。

今年度は「支援のポイント」がわかる事例集の作成を通じて、中小企業におけるデータ活用の取組をもっと地域に広げていきたいと思っています。

データ活用の成功ポイントは 「なんとかしたい!」という熱意

-ちなみに、「ブートキャンプ」のネーミングはご自身で考えたのですか

私ではなく、事業の受託者が考えた名称なんです。当局の幹部には、「ブートキャンプ」なのに1年もかけてやるの?と言われてしまいました(笑)。企業内実証のことを考えると、最低7~8ヶ月程度の期間が必要なので、「ブートキャンプ」なのかと言われると・・・。

-中小企業におけるデータ活用の成功のポイントとして、担当者として思い当たることはありますか

自社の課題を的確に認識している中小企業は強いです。
また、デジタルに対してアレルギーがない人材が社内にいるに越したことはないのですが、「なんとかしたい!」という思いが強い方が重要であり、そのような思いがあれば、デジタル人材がいなくてもキャッチアップするケースが多いです。
思いが強い人は、個別相談会においても、次から次へ質問をぶつけてきます。そういう方には成功してもらいたいので、我々支援者側も応えようと必死です。

熱意は大事です。特に、取組当初の「成果が目に見えていない段階」での熱意はとても重要です。
成果が出ていればいくらでも社内に説明できますが、成果が出ていない段階で、データ収集などのマンパワーが必要な作業を無駄な行為や労力と捉えずに、前向きに頑張れるかが成功の秘訣のように思います。
私自身、そういった熱意がある人が好きですし、応援していきたいです!

デジタル経済課のブートキャンプ事業担当の皆さん

「地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業」のご紹介
関東経済産業局は、地域企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進するため、自治体及び金融機関等と連携し、各地域の中小企業のデータ活用人材を育成する「地域中小企業データ活用ブートキャンプ事業」を実施しています。また、中小企業のDX支援を行う自治体及び金融機関等向けに、支援ノウハウを習得できる研修プログラムを提供し、地域の支援人材も育成しています。