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苔(コケ)で地球環境を守る ~株式会社ジャパンモスファクトリー~

こんにちは、関東経済産業局 政策評価広報課です。
地域で出会った驚き、感動、夢などを伝えていきたいと思います。
今回は、苔を製造・加工し、苔で地球環境を守ることに挑戦する理研発ベンチャー、株式会社ジャパンモスファクトリー(埼玉県和光市)を紹介します。(見出し画像提供:株式会社ジャパンモスファクトリー)

「道ばたでなにげなく見かける苔が、環境を救う日が来るかもしれません。」

株式会社ジャパンモスファクトリーの代表取締役を務める井藤賀さんは、そう語ります。

小学生の頃、校庭に放置されていた鉢で盆栽を始め、苔の見た目や生命力に惹かれて観察日記を付けていた井藤賀さんは、大学でも研究テーマにするほど、苔に惹かれていきました。とはいえ、「苔」は研究テーマとしてはメジャーとは言えません。研究を続けようにも研究場所を見つけるのも一苦労。就職した理化学研究所での研究テーマは、一見苔とは関係がない「ゴミの焼却灰が溶け込んだ有害な液体の処理」でした。しかし、試行錯誤する中、井藤賀さんはひとつの可能性に思いを巡らせます。「キャンプファイヤーの後のような焼却灰を好む苔がある。その苔は有害な液体の処理に使えないだろうか」。

研究を続け、2007年のある日、井藤賀さんは苔の原糸体(胞子の発芽直後の苔)が鉛を吸着することを世界で初めて発見しました。「苔は、工場や鉱山から流れ出る汚染水を浄化する、天然のフィルターになるのではないか」、苔の可能性を信じた井藤賀さんは、一念発起し、2019年4月、株式会社ジャパンモスファクトリーを設立。「苔で地球環境を守る」をテーマに事業化に取り組み始めました。

鉛を吸着する苔の原糸体
(画像提供:株式会社ジャパンモスファクトリー)

研究の進展と事業化の壁

設立からほどなく、同社は、苔は原糸体の状態で培養することによって通常の100倍以上の速度で増えることを発見し、世界で初めて苔の大量培養に成功しました。また、苔は鉛だけでなく、金や白金も吸着することがわかり、苔による金属回収や環境浄化の期待はますます高まりました。
このように、研究は着実に成果を上げていましたが、事業化には大きな壁がありました。大量培養に使用した100L規模の培養槽はコスト度外視の特注品であり、事業化にはコストダウンが不可欠でした。
そのような折、高度なプラスチック加工技術を持つ墨田加工株式会社と出会い、新しい培養槽の開発に着手。従来より、軽く、薄く、かつ低コストの100L規模の培養槽の開発に成功し、事業化の道が開けました。

100L規模の原糸体培養装置
(画像提供:株式会社ジャパンモスファクトリー)

苔で拓く未来

苔の大量培養は、室内で培養槽を使用する方法のほか、耕作放棄地で太陽光を用いる方法でも実証実験に成功しています。今後は、更なる大量培養の課題に取り組みながら、養殖工場等の廃液浄化用の「コケフィルター」の販売にも力を入れていきます。コケフィルターは、工場排水の浄化に使われている化学処理剤に代わることができます。

工場排水から金属を回収するコケフィルター
(画像提供:株式会社ジャパンモスファクトリー)

また、苔の原糸体は非常に軽く運搬コストがかからないため海外での使用も考えられます。鉱山の排水や工場排水、大気汚染など、浄化すべきものは世界中にあります。
苔は太陽光と水があれば永続的に増やすことができます。「苔で地球環境を守る日」が実現するまで、井藤賀さんの、株式会社ジャパンモスファクトリーの挑戦は続きます。

(画像提供:株式会社ジャパンモスファクトリー)

-編集後記-
墨田加工株式会社との出会いは、当局の「中堅・中小企業とスタートアップの連携による価値創造チャレンジ事業」がきっかけでした。
井藤賀さんに当局で講演いただいた際、苔を紙状にしたコケシートを拝見しましたが、本当に軽く、ほんのり苔の香りがしました。また、金を吸着した苔の瓶を会議室の蛍光灯にかざすと「キラリ」と光ってその場にいた者がどよめき、海外の鉱山から流れ出る排水を苔できれいにしたいと語る井藤賀さんの目も輝いていたのが印象的でした。

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