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『~経営力向上計画を活用しながら、自社の現状把握と今後の成長戦略を考える~』

経営力向上計画は、中小企業等経営強化法に基づく制度であり、自社が直面する課題の整理、財務面の分析、生産性向上の目標設定、さらには設備導入や人材育成などの経営力を向上させるための取組を検討し、事業計画としてまとめることが出来る支援ツールです。
国による認定を受けることにより、設備投資減税(中小企業経営強化税制)や政府系金融機関からの低利融資などの金融面での支援を受けることができ、2016年の制度開始以来、多くの事業者さまにご活用頂いております。見聞録では、経営力向上計画を上手に活用している事業者さまの『使い方』に焦点を当て、その秘訣をお届けしていきます!

今回取材したのは、埼玉県秩父市に本社がある精密加工の『株式会社 新井精密』です。
同社は繊維関係の企業に勤務していた先代(現代表者のお父様)が独立し、夫婦二人の内職から精密部品加工の事業をスタートさせました。現在は、自動車分野、医療機器分野、コネクター分野、空圧分野等幅広い業種に対応しながら事業を行っています。
今回お話をお伺いしたのは、2代目である新井利幸社長です。

新井社長は大学卒業後、同社へ入社。入社後は営業から生産管理まですべての部門に携わってきました。先代からは、『めまぐるしく変化する経営環境の中、その流れについていく為にも早い段階で世代交代をしたい』と話があり、入社直後から経営者としての意識を持ちながら仕事をしていたそうです。

そして、平成25年10月、新井社長が35才の時に代表へ就任。夫婦二人からスタートした株式会社新井精密は、当時、従業員数50名まで拡大しており、会社、従業員、その家族を守っていく為にも、身が引き締まる思いだったそうです。
その後は、設備導入を随時行いながら、事業を順調に拡大しています。

-どういった経緯で経営力向上計画を活用しましたか?

当社では、現時点の経営状況を把握しながら、今後の企業の方向性を明確化する目的で自社の『中長期経営計画』を策定しております。
この中長期経営計画を推進する中、生産性向上のために導入予定だった設備について、支援を受けていた商工会議所の担当者から「ものづくり補助金の活用が可能ではないか」と提案を受け、当時はその加点になることもあって、経営力向上計画を活用しました。

経営力向上計画を活用して導入した設備

―経営力向上計画を策定された率直な感想はいかがでしょうか?

きっかけは、ものづくり補助金の加点目的で策定しましたが、経営力向上計画を自分自身で策定したメリットは多かったと思っています。

まず、1つ目は、「○○計画の策定」と聞くと、一見難しそうなイメージを持つことがあると思いますが、経営力向上計画は簡単・簡潔に策定することができた点です。
簡単・簡潔ではあるものの、数字も把握し、定性的な情報も盛り込むなど、中身のしっかりした計画書ができることから、事業計画を策定する入門編としては最適なのではないかと考えます。

2つ目は、ローカルベンチマークを活用しながら自社の検証ができる点です。
ローカルベンチマークは、企業の経営状態の把握、いわゆる「企業の健康診断」を行うツールであり、私自身、自社の現状把握ができる点で、経営指標としてとても大切なものだと思っております。経営力向上計画ではそのローカルベンチマークの活用が必須になっており、直近の決算書を用いて自社の業況を把握していくことができる計画書だと感じました。
追加で設備投資を行う際に提出する変更申請でも、当初申請した際のローカルベンチマークと変更時のローカルベンチマークを比較することによって、設備投資が想定どおりに行われているか、利益率にしっかりと反映されているか等、様々な検証を行うことができる点もよいと思います。

3つ目は、定性情報を把握できる点です。
経営力向上計画を策定することで、現状認識(市場の動向把握や競合の動向)や自社の強み・弱み、経営課題を整理することができます。定性情報を把握することで、今後その強みをどう活かしていくか、どのような設備投資を行えば、経営課題を補えるかなど、自社の未来像を描くことができます。

社員が利用できるカフェスペースと社員が描く黒板アート

4つ目は、今後の設備投資意欲を継続できる点です。
経営力向上計画の認定を受けることで、税制面での優遇措置を受けることができます。投資した設備について、即時償却又は取得価額の10%(資本金 3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用することができました。
即時償却を受けることは利益が出た企業にとって、キャッシュアウトを減少させることができます。あわせて、税制をうまく活用しながら今後の設備投資を考えられ、成長戦略を描くことができる点も良いところだと思います。
 
今回は4つのメリットを挙げさせて頂きましたが、当社では経営力向上計画を策定し、定期的に比較・検証することで、経営判断を行う上での重要な指標として活用しています。自社事業の検証を数字を使って行い、得られた成果については従業員にフィードバックすることで、安心して働ける環境作りにも繋がっています。
実際、経営力向上計画を策定し設備投資を行った2021年の売上高(820百万円)と直近の売上高(1,126百万円)を比較すると、約37%増加しております。設備を導入することで調達コストの削減や経費の削減に繋がったこともあり、大幅に収益力が改善されました。

―生産性向上に向け課題を解決するために、どのようなことに取り組みましたか?

生産管理に関しては、すべて可視化できるようにIoT化を図っております。
具体的には、効率的な生産管理を実現する為に加工実績データや各工程における滞在・作業時間を収集・分析しております。肌感覚ではなく実際のデータを基に生産管理を行うことで、例えば採算が合わない製品の把握も簡便になりますし、常に社内で情報を共有することで、誰が、なにを、いつまでに行うかを明確化することができ、生産性が向上していると感じております。
従業員にとっても、日々の業務を可視化したことで、自ら考え、先を見据えて行動するなど、良い循環となっております。

効率的な生産管理を実現するためIoTを活用

―数年後の自社の姿をどのように描いていますか?

今年で私が代表者に就任して、10期目となりました。
現在はありがたいことに従業員数も100名程度まで拡大しております。
労働力人口が減少している中でも、人材を確保していかなければならない状況ですが、お客様、従業員、その家族、地元からも当社が魅力ある企業であり続けていきたいと思っております。その為にも、当社の強みである精密加工品の高能率、高精度を維持し続けながら、今後も加工難易度の高い製品に対して柔軟に対応していける環境を整えていきたいと思っています。それには従業員の教育も必要ですし、技術の継承やより高度な設備の導入も行っていかなければならないと思っております。
先行きが不透明な部分もありますが、経営力向上計画も活用し、自社の経営状況を常に検証しながら、今後も成長していきたいと思っております。

製品ラインアップ
外観(SDGsの達成、脱炭素社会の実現に向け工場の屋根一面に太陽光パネルを設置)

■企業概要
 株式会社新井精密 
 代表取締役 新井利幸
 埼玉県秩父市小柱670番地