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介護×DXの社会実装に向けた先導者となるために~社会福祉法人善光会の挑戦~

こんにちは。関東経済産業局次世代産業課です。
「テクノロジーで創り出す介護の未来」最新事例Episode2をお届けいたします!

今回は、東京都大田区の社会福祉法人善光会の取組をご紹介します。
善光会では、複数の介護福祉施設の運営に加え、社会福祉法人初となる研究開発機能を持ちあわせた「サンタフェ総合研究室」を設立するなど、介護現場の生産性向上を目指す先進的な活動を進めています。
また、他の介護事業所や地域の介護現場の改善を検討する自治体を対象に、介護事業所のDXを目的としたコンサルティング支援を行っています。

Episode1でご紹介した茨城県大子町の保内園を対象に、DX支援を担当された善光会 谷様、小山様、伊丹谷様へお話を伺いました。

対話を重ね、DXに取り組む体制を構築する。伴走支援だからこそ出来ること

-介護事業所に対するDX支援を行う際に気をつけている点、工夫している点等はありますか。

経営層・現場層の双方としっかりとコミュニケーションをとり、DXの目的を整理することや効果を理解してもらうことを重視しています。

DXは、ともすれば、介護ロボットやICT機器を導入すること自体が目的となってしまいます。DXにより経営的に何を実現したいのか、理事長や施設長などの経営層とコミュニケーションをとりながら、しっかりすり合わせるようにしています。

また、現場の職員は、介護ロボットやICT機器を入れることで、ご利用者様に対するケアの質が低下するのではないか懸念を持たれる場合が少なくありません。DXを推進することで、余計な仕事が減り、ご利用者様と向き合う時間が増えること・職員の働き方にもゆとりが出ることについて、コミュニケーションをとりながらしっかりと理解してもらうようにしています。

(社福)善光会 小山様

-なるほど。コミュニケーションをとりながら事業所全体でDXに取り組む体制をつくっていくということですね。大子町では自治体と連携して介護事業所を支援されましたが、自治体にはどのようなことを求めますか。

自治体には、地域で困っている事業者を私たちのような地域外の事業者につなぐ役割を期待したいです。今回は、大子町の福祉担当の方に後押しいただいたおかげで、大変スムーズに支援を進めることができました。
自治体担当者が、地域の実情をしっかり理解し、地域にないノウハウをもつプレイヤーとフットワーク軽く繋ぐことこそ、地域の介護DXを推進するうえで大きな要素であると考えています。

(社福)善光会 伊丹谷様

日本の「介護×DX」、解決すべき課題とは

-貴会が感じる介護事業所がDXを実現するうえでの課題とは何でしょうか。

課題は大きく2点あると考えています。

1点目は資金面です。介護事業を営む経営主体は、比較的小規模な法人が多く、介護ロボットやICT機器を導入するだけの資金余力がないのが実態です。
最近、自治体が導入に向けた補助金を拡充していますが、申請手続が煩雑なこと・申請期間が限られることから事業者にとって必ずしも使い勝手の良い補助金とはなっていないように思います。
弊会としては、そのような中でも、支援先の事業者様がしっかりと補助金を活用できるようサポートさせていただいています。

2点目は人材面です。事業所のDXを担う人材が不足しています。
介護業界は、これまでDXとは縁遠い業界だと思われていたため、DX人材育成のための職員・学生を対象とした教育活動が不十分でした。
そこで、弊会は、自施設におけるノウハウをベースに「スマート介護士」プログラムを立ち上げ、資格試験の実施や専門学校における教育活動に取り組んでいます。

(社福)善光会 谷様

-課題も多い介護業界の行く末を担う先導者である貴会の今後の活動をお聞かせ下さい。

介護業界全体のDXは、私たちの力だけでは到底実現できません。一緒にDXに取り組む仲間をもっともっと増やさなければならないと考えています。そのために、まず、基礎自治体の皆さんと連携しながら、各地域にモデルとなる事業所づくりに取り組んでいます。

今後は、各地に「点」として存在する事業所の取組が「面」となって広がっていくための仕掛けが必要になります。そのために、都道府県の皆様や各県域の関係団体の皆様との連携関係を強化し、取組を発展させていきたいと考えています。

また、弊会は、上記の介護事業者DX支援に加え、介護に関するデータを統一的に取得し、現場にわかりやすく表示するソリューション「スマート介護プラットフォーム(SCOP)」を開発しています。
このSCOPについては、数ある機能の一部(介護記録システム部分)を大子町の保内園様に導入いただきました。このソリューションは、日本医療研究開発機構(AMED)の補助を受けており、さらなる機能性・操作性の向上を目指しています。

「スマート介護」の実現に向けて

-ここで、「SCOP」の開発を主導した社会福祉法人善光会 宮本理事にコメントを頂きました。

(社福)善光会 宮本理事

弊会では、自社が運営する介護施設において、多数の介護ロボット、ICT機器等の導入に成功しています。こうしたテクノロジーを導入した知見を生かし、介護施設職員の業務負担軽減とサービス品質向上を目的に、「スマート介護プラットフォーム(SCOP)」を開発しました。

同ソリューションは、介護業務を支援する様々な機能が搭載され、現在は、職員の記録・申送り業務負担を削減する介護記録アプリ「SCOP home」、記録から請求までをICT化する「SCOP receipt」、複数のロボット介護機器のインターフェースを統合する「SCOP now」のサービス提供を行っています。

また、私は、(一社)日本ケアテック協会の理事も務めています。介護現場データに即したテクノロジーの利活用の促進・社会実装の推進等を目指して、現場視点によるケアテック製品やサービスの開発の推進、介護現場がケアテックを利活用しやすい環境や情報整備の推進等に取り組んでいます。

SCOPの全体像
SCOPの導入効果①
SCOPの導入効果②
SCOPの導入効果③

介護ロボット・ICT機器の開発・導入支援

介護需要の増加や生産年齢人口の減少により、介護現場では介護人材不足が深刻化しています。

6月16日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」において、介護離職防止の観点から、介護現場の生産性向上や、職場環境の改善を目的とした介護事業所における介護ロボット・ICT機器の開発や導入の推進が明記されました。

経済産業省では、このような状況を踏まえ、介護現場での課題を解決するロボット介護機器・福祉用具の開発支援を行うことにより、介護の生産性向上や介護の質の向上等の実現を目指しています。
関東経済産業局においても、好事例、先進的な支援手法の展開などにより、国内の介護ロボット、ICT機器マーケットの機運醸成に取り組んでいきます。

~編集後記~
介護施設を運営しながらソリューションを開発し、さらには他の介護事業所のDXに向けたコンサルティングも行うなど、先進的な取組によってまさに地域の介護現場を多面的に支えておられる事業者様でした!
介護業界のDXを推進していくことで、介護現場の課題解決を図りながらケアテック事業者のマーケット拡大にも繋げていく、業界の先導者として今後の活躍に期待です!

社会福祉法人善光会 
設立:2005年12月7日
創業者:西田日出美
従業員数:511名(2020年4月1日現在)
https://www.zenkoukai.jp/japanese/

【参考】
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
第5回日本医療研究開発大賞 日本医療研究開発機構(AMED)理事長賞
医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業(ロボット介護機器開発等推進事業)
令和4年度経済産業省「医療機器等における先進的研究開発・開発体制強靭化事業」

【関連記事】
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次号Episode3をお楽しみに!


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