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自動車が変わる、中小企業は変われるか。

こんにちは、関東経済産業局 政策評価広報課です。
地域を巡る中で出会った驚き、感動、夢などを伝えていきたいと思います。
今回は、刻々と変化する社会・事業環境に中小企業はどのように立ち向かっているのか、EV化・カーボンニュートラルという難題に直面している自動車業界で果敢に戦う2社を紹介します。

協和合金株式会社(神奈川県横浜市)

同社の主力製品は、マニュアル車でギアチェンジに使われるシンクロナイザーリングです。主に発展途上国の商用車に使われています。国内自動車メーカーを取引先とし、中国、インド、インドネシアの3カ国に生産拠点、フランスに販売拠点を構えています。

シンクロナイザーリング

「仕事が減るのは明らかです」

事業は順調に見えます。しかし、シンクロナイザーリングはマニュアル車専用の部品。発展途上国でも生活水準が上がればオートマ車に切り替わることが予想されます。また、EV化が進めば使われなくなる製品です。

「なにもしなければ仕事が減るのは明らかです。縮小する市場で勝負するには、管理コストを落とし、生産性を上げなければなりません」と、取締役の髙島さんは危機感を抱きます。

問題は、問題がわからないこと

生産性を上げようにも、どこに問題があるのかがわかりません。取組は、生産データを集めて、工場に潜む無駄を浮き彫りにすることから始まりました。

新型コロナによる緊急事態宣言で身動きが取れなかった2020年。それでもできることをしようと、専任を置いたプロジェクトチームを立ち上げ、生産数、稼働時間などを自動集計するプログラムの開発に着手しました。
開発は、社員が一からプログラミングを勉強し、自社で行いました。そこには、社員が知識を習得することで、開発コストを抑えながら、継続して取り組んでいきたいとの狙いがありました。

見えてきた工場に潜む無駄

開発したプログラムを積んだ情報収集機で、設備の稼働、異常停止、生産数を記録します。データを見ると、これまで見えていなかった無駄が見えてきました。

まず、手入力してきた設備の稼働状況は実際とギャップがありました。作業者の記憶による手入力は、必ずしも正確ではなかったのかもしれません。
また、サイクルタイムにも設定値と実績にギャップがありました。こうしたギャップが、生産計画での無駄の原因になっていたのです。

自社開発の情報収集機(画像提供:協和合金株式会社)

そこで、情報収集機が記録した稼働状況をリアルタイムで知らせるランプやモニターを設置し、工場内の情報を常に表示できるようにしました。異常停止を素早く発見・対処することで、設備の停止による生産の無駄を削減できます。

設備の稼働状況をリアルタイムで知らせるランプとモニター

無駄の排除と新しい事業の両輪で

現状のところ、すべての設備に情報収集機を導入できたわけではありません。将来的には海外の工場にも導入したいと考えています。

また、無駄の排除と並行して、同社が取り組んでいることがあります。新しい事業の柱づくりです。「先が見通せない状況はあらゆるものに挑戦するチャンス」と捉え、新たな事業は自動車関連に限る必要はないと考えています。
無駄の排除と新しい事業の両輪で時代の潮流を生き抜いていきます。

プログラム開発メンバー:杉山さん、林さん、高島さん


久保井塗装株式会社(埼玉県狭山市)

同社は、自動車部品や家電製品、建築金物といった工業製品の塗装を専門とする工業塗装メーカーです。戦後の復興期から続く事業は、時代の移り変わりに対応してきました。前社長は、工業製品の素材が金属からプラスチックへシフトすることを見据えて社内体制を変革しました。
2代目の現社長は、カーボンニュートラルという現代の要請にいままさに挑戦しています。

「塗料は70~80%が無駄になっています」

近年、大手自動車メーカーがカーボンニュートラルの方針を打ち出したことで、自動車業界は、いよいよ、サプライヤーを巻き込んだカーボンニュートラルへの対応が本格化してきています。

窪井社長は言います。「塗布した塗料が製品に塗着する割合、塗着効率は一般的な塗装工場では20~30%程度です。残りの70~80%は製品の塗膜にならずに霧状のまま塗装ブースの水の中に落ちて無駄になっています。
塗料には、樹脂成分やVOC(揮発性有機化合物)などの環境負荷物質が含まれており、製造過程で二酸化炭素(CO₂)も排出されています。
この無駄になっている分を極力減らすことで塗料の使用量を減らすことができます。塗着効率の最大化は、塗装に求められる錆や紫外線から製品を守るという機能は提供しつつ、工場としてはカーボンニュートラルを実現する目標に欠かせません。」

窪井社長

塗着効率85%への挑戦

同社はこれまでも塗着効率を40~60%に高める努力を続けてきましたが、それをさらに飛躍させ、新技術として確立させる超高塗着塗装システムの開発に取り組んでいます。
目指すは、塗着効率85%!塗料の使用量を従来の半分程度に減らし、塗装の過程で発生する環境負荷物質やCO₂の排出量を減らします。
また、塗料の無駄を削減することで、サプライチェーンの顧客から求められるコスト帯で生産できる「戦える体質」になる狙いもあります。

その実現には、ロボット制御や正確な効果測定技術が不可欠です。この無謀とも思える挑戦に賛同してくれるパートナーを見つけることは容易ではありませんでした。何度も技術的裏付けを説明し、賛同してくれた大学や機械メーカーなどとともに日々開発を進めています。

一般的な塗装工場の塗着効率と新技術の開発目標
(画像提供:久保井塗装株式会社)

外部との連携だけではなく、社内の人材育成にも力を入れています。大手塗料メーカー出身の技術顧問と自動車メーカー出身の取締役が社内勉強会を開催し、塗装だけでなく、電着など社内にノウハウのない技術も教えます。
いずれは、社員が自ら顧客と対話できる塗装コーディネーターになることを目指しています。

リーン・グリーン・コンパクト

今後は、超高塗着塗装に、IoTや太陽光発電などを組み合わせ、無駄がなく、できるだけクリーンなエネルギーで高効率な「リーン・グリーン・コンパクト」な工場を目指します。
不良率のような「比較される特徴」ではなく、超高塗着塗装という独自技術を中心とした環境対応を武器に、これからの自動車業界を戦っていきます。


-編集後記-
EV化やカーボンニュートラルという自動車業界のトレンドに、独自の方法で立ち向かう2社を取材しました。
協和合金は、IoTを取り入れ、市場が縮小する自社製品の製造に潜んだ無駄を削ぎ落として生き残りを図りながら、新たな事業を育て、成長を目指していました。
久保井塗装は、他社との協業による研究開発を積極的に行い、業界の常識を越えた技術で勝負しています。
2社ともに、刻々と変わる自動車業界で自らも変わり、困難に立ち向かっている姿に力強さを感じました。
一方、「変化への危機感は業界内でも様々」と耳にすることがあります。いま、変わるかどうかが、近い将来、自動車業界で生きる中小企業の明暗を分けるのかもしれません。

【関連施策】
自動車産業「ミカタプロジェクト」

経済産業省では、自動車産業に関わる中堅・中小企業の脱炭素に向けた『見方』を示し、企業の『味方』としてサポートする「ミカタプロジェクト」を展開しています。
自動車の電動化の進展で需要が減少する自動車部品のサプライヤーが取り組む「攻めの業態転換・事業再構築」を、支援拠点を設置し、専門家派遣、セミナー等で支援します。