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”これまでも、そしてこれからも地元佐渡と歩みを共に”地酒造りで大切にしていること

経営者の情熱を発信していく“Project CHAIN”。第7回目は、新潟県佐渡市において、佐渡の地酒として人気が高い「金鶴(きんつる)」の蔵元、有限会社加藤酒造店の加藤一郎代表です。同社は“米から手掛ける酒造り”をテーマに、全量佐渡産米を使用し、島内の農家の方々と共に酒造りに取り組んでいます。また、量販店等での販売は行わず、6割は佐渡島内、残りの4割は島外の、提携した酒屋のみに卸しています。日本酒造りにかける想いを中心にお話を伺いました。

佐渡から離れたことで見えてきた「家業」への想い

-一郎さんと家業である酒造りとの関係について教えてください。

幼い頃は住居と酒蔵が同じ場所にあり、蒸した酒米を食べたりするなど酒造りは身近な存在でした。
家業のイメージは、“休みがない”というものでしたね。酒造りや販売などで忙しく、毎日働いて当たり前といった感じで、家族で旅行に行った記憶もほとんどないんですよ。
その他、微生物による発酵の世界観も子供の頃は難しすぎて、家業をあまり魅力的とは感じていなかったですね。ただ、家族や親戚が集まって、皆でお酒を飲んで楽しんでいる姿はとても好きでした。

-もともと家業を継ぐつもりだったのですか。

高校生までは、選択肢の一つぐらいにしか考えていませんでした。親からは、継いでくれたら嬉しいくらいの話しかなく、「やりたいことをやればいい。他人の釜の飯を食べてこい」と言われていました。

-家業を継ぐことを意識したきっかけについて教えてください。

高校を卒業後、佐渡を出て関東の大学へ進学しました。大学時代に、家業が佐渡の酒蔵であることを知った友人が、佐渡という土地、そして日本酒造りに関心を持ってくれたんです。友人を通して、自分自身も佐渡や酒造りを改めて意識するようになり、佐渡という離島で造ったお酒が、都市部の居酒屋で提供され、お客さんがお酒を楽しんでくれていることに誇りをもつようになっていきました。選択肢の一つとしてあった「家業を継ぐ」という気持ちがじわじわと高まっていき、いずれは佐渡に戻ろうと考え始めました。

-大学を出て、食品メーカーに就職されますが、どのような思いがあったのでしょうか。

就職活動では、様々な業種を幅広く検討しましたが、「形あるもの」をつくるメーカーに憧れ、徐々に絞っていきました。将来的に佐渡に戻ることを決めていたこともあり、「形あるもの」のイメージが、酒との共通点もある"食”に集約され、食品メーカーに就職しました。もともと30歳になったら実家に戻ろうと決めていたのですが、29歳のときにマーケティング部へ異動となり、マーケティングについて経験してからでも遅くないと考えて1年延長し、31歳で佐渡に戻ってきました。

家業や酒造り、地元佐渡への想いについて熱く語る加藤一郎代表

社長として、加藤酒造店として

-2015年に佐渡に戻り、加藤酒造店へ入社されました。入社してからはどうでしたか。

入社後は酒造りの知識・経験もなく、新入社員として一からのスタートでした。入社してからは色々と失敗も経験してきましたよ。今だから言えますが、ラベルや資材の発注忘れによってスケジュールが狂い、社員に休日出勤してもらい助けられたこともありました・・。自分は不器用で、仕事を抱え込みすぎてしまうことがあるので、今でも気をつけるようにしています。

-入社後、家業を継ぐタイミングなどはお父様と話はしていましたか。

事業承継は何年かかけて、じっくり取り組みたいと考えており、父には辞めるタイミングは事前に相談してほしい旨は伝えていました。ただ実際は違いましたね。2022年7月に父から突然、「辞めるので10月から社長になるように」と話がありました。さすがに難しいと伝え、待ってもらいましたが、2023年1月社長就任となりました。

-社長となり数ヶ月経ちますが、いかがですか。困ったときに相談などはどうされていますか。

社員時代と社長になってからの立場の違いに戸惑っています。チームマネージメントなどの課題も多く、まだまだこれからですね。ゆくゆくは従業員が個々の力を最大限発揮できる環境にしていきたい。そのために従業員とのコミュニケーションを増やしていきたいです。
相談は主に家族にしています。私の考えで会社をどうしたいということよりも先に、「加藤酒造店」としてどうあるべきか、どうしてきたかを大事にしています。そのため、取引先の酒屋さんに相談することもあります。酒屋さんとは家族ぐるみの関係ですので。

酒蔵と酒屋の関係は結婚と同じ

-酒屋さんとの関係を非常に大切にされているのですね。

新潟の酒の特徴である淡麗辛口を広めた早福酒食品店の会長が「酒蔵と酒屋の関係は結婚と同じ」と仰っていますが、加藤酒造店の商いの姿勢はその言葉に大きく影響を受けています。取引を始める前にはお互いを知り合う為に時間をかけますし、一度取引が始まれば人と人、家と家との付き合いで簡単には離婚はできません。

加藤酒造店の代表的な日本酒「金鶴」。従業員と一致団結して酒造りを行い、結婚相手である酒屋さんと一緒に「加藤酒造店」の酒を届けている。

酒造りへの想い/佐渡への恩返し

-酒造りで大切にしていることはありますか。

「うちでしかできない、うちならではの酒造り」を目標としています。どんな想いでどんな人が作っているのかを分かってもらった上で買っていただくことが大事だと考えていますので、量販店での販売やインターネット販売は行わず、対面販売ができる酒屋さんを中心に販売していただいています。うちの酒蔵のファンを大切にし、ついつい語りたくなる、推したくなる日本酒を提供し続けていきたいです。
また、加藤酒造店として「佐渡と共に歩む」ことを大事にしています。佐渡産米しか使わない酒造りはその代表的な取組の一つです。佐渡は野生にトキが生息する唯一の島。佐渡市では「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」と呼ばれるトキを中心とした環境に配慮した米作りに取り組んでいます。加藤酒造店の日本酒を飲んでいただくことで、佐渡の自然を守ることができる。農家や酒屋、様々な仲間に感謝しながら、酒造りをしている佐渡への恩返しも引き続き行っていきたいです。

【企業概要】
 有限会社加藤酒造店
 代表 加藤 一郎(かとう いちろう)
 新潟県佐渡市沢根炭屋町50

-編集後記-
加藤社長の好きな言葉の一つに「足るを知る」という言葉があるそうです。今ある環境、状態に感謝し、暮らしているとおっしゃっていました。また、人間らしい豊かな心持ちで酒造りをするとそれが酒の味に出てくるとも。「加藤酒造店の酒」は、地元への感謝・心の余裕が隠し味の一つになっているのかもしれないなと感じました。
                          派遣特派員 IY