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“風と太陽で刷る印刷“に挑戦する社長の情熱。「共感・共鳴」を大切に歩んできた社会課題解決型企業の姿

経営者の情熱を発信する “Project CHAIN”第8弾。今回は、神奈川県横浜市において、印刷サービスを通じて社会課題解決に取り組む「ソーシャルプリンティングカンパニー®」株式会社大川印刷の6代目経営者大川哲郎さんです。明治14年創業の横浜を代表する同社は、中小印刷業では類を見ない、100%再生可能エネルギーによる「風と太陽で刷る印刷」を実現しています。また、社会課題解決に向けた取組などを世の中に届ける接点を増やし、同じ志を持つ仲間が集える拠点として、カーボンオフセット済みの社会課題解決型スタジオ「with GREEN PRINTING」を設置するなど様々な新事業を展開されています。大川代表の経営に対する想いを中心にお話を伺いました。

少年時代に感じた大川印刷への「誇り」。会社の運動会での忘れられないプレゼント

-幼少期、家業にどんなイメージを持っていましたか。

当社が印刷したお客様の商品を身近に感じることが多く、家業に「誇り」を持っていました。長年の取引先の崎陽軒様が正月に向けて販売する「シウマイ年賀状」は学校でも話題になることが多く、得意げにクラスの友達に送っていたことを覚えています。
また、当社では、社員が一堂に会する運動会を年1回開催していたのですが、子供の頃から参加していました。4歳の頃に参加した運動会で、当時の社員さんから、今では珍しくなった活版印刷機に使われる活字をプレゼントされたことは忘れられない嬉しい思い出です。「おおかわてつお」と選んでくれました。印刷を通じて人を幸せにできるんだと思いました。

-事業承継を意識したきっかけはありますか。

高校1~2年生の頃に、父から「将来的に会社を継ぐ気はあるか?」と話がありました。当時は経営のことは全くわかりませんでしたが、父が大好きだったので、期待に応えたいという想いを強く持って打診を引き受けたことを覚えています。
私が大学生の19歳の時、父が急逝しました。それを受けて、専業主婦であった母が急遽5代目として承継しました。父の友人の経営者から、母に対して「ご子息の承継のため、経営を学べるように預かりましょうか」という有り難い言葉をいただき、大学卒業後の3年間は、同業他社に就職し、営業・企画など多くのことを経験しました。特に、大企業相手の営業の際に学んだ「諦めない気持ち」は今の経営にも活かされています。

自分ゴト化して社会課題解決に取り組むためのキーワードは「共感・共鳴」

-入社時~代表になった現在を振り返って、会社のイメージに変化はありましたか。

他社で修行した甲斐もあり、入社後、100年企業の良い点、悪い点が見えてきました。伝統が受け継がれている一方、慣れや甘えの雰囲気が見られる場面がありました。当時は印刷業も儲かっていて注文が自然と入ってくる状況であったことも起因していたかもしれません。10年先を見据えると、このままの組織でいいのか、大川印刷だからこそ提供できる価値は何なのか、真剣に考えました。
まずは自分が率先して変わろうと考えました。社長室長時代は、一番早く出社し、スリッパを揃え、掃除を行い、誰よりも大きい声で挨拶をしました。
少しずつ社内が変わっていきましたが、ターニングポイントとなった出来事があります。取引先の外資系の大手製薬会社から、急遽、出荷前検査を求められたことがありました。当時の現場サイドからは、対応できないという声が上がったため、私自らが現場に出て早朝から毎日検査を行いました。その際、率先して手伝ってくれたのが、製造部のMさんでした。その姿を見て、徐々に出荷前検査を一緒にやってくれる仲間が増えていきました。

大きなことを成し遂げることは1人の力ではできません。この出来事をきっかけに、私と一緒に会社を牽引してくれる「共感・共鳴」する同志が少しずつ増えていきました。社会課題解決型企業の大川印刷として歩むことができた原点であり、忘れられないターニングポイントです。
「共感・共鳴」がなければ人の心は動きません。例えば、五感を通じてフードロス問題を自分ゴトにするために、社員皆で自宅の消費期限間際の食材を持ち寄り、料理を作る社内イベント「サルベージパーティ」を開催しました。これを通じてロスの可能性がある食材でも生み出せる価値を自分ゴトとして学ぶことができました。一人一人が納得し、社会課題解決に取り組む意義を「共感・共鳴」することを大切にしています。

会社の大変な時期に「共感・共鳴」し協力してくれたMさんとの一枚


社会課題解決を自分ゴトとして五感で感じるための社内企画(社員が自宅の消費期限間際の食材を持ち寄り、料理を作るイベントを開催)

-社会課題解決事業として取り組んでいる100%再エネによる印刷とは具体的にどのような内容なのでしょうか。

2019年から、印刷に使う電力の約20%は工場屋上の太陽光パネルで自家発電、残りの約80%は青森県の風力発電所の電気を購入し、100%再生可能エネルギーで印刷しています。「風と太陽で刷る印刷」として、中小印刷業がカーボンニュートラルに挑戦しています。また、省エネ設備の導入や余計な資材・ケースを使用しないようにするなどの取組を通じ、企業活動から排出される温室効果ガスを相殺するカーボンオフセットにも注力しています。原材料高騰やペーパーレスの推進など、印刷業界には厳しい逆風の中でも、「必要とされる会社とは何か」を考え、新しい取組にチャレンジしています。これは当社の競争力の源泉になっています。

-お会いする度に新たな取組を展開されていますが、活動をどのように発信していますか。

社会課題解決をテーマに動画収録や配信、イベント開催ができるスタジオとして「with GREEN PRINTING」を2022年3月に開設しました。自社の取組の配信はもちろんのこと、様々な企業・団体にレンタルも行っています。また、社会課題解決型企業の製品を展示販売するギャラリーも併設しています。月に一度、映画上映会&交流会を開催したり、空き時間には交流イベントを開催したり、コワーキングスペースとして活用しています。多くの仲間が集い、助け合い、想いを発信する拠点となっています。

仲間が集い、想いを発信する拠点「with GREEN PRINTING」。
社会課題解決型企業の製品も展示販売するギャラリーも併設。

挑戦し続けた先に見えてきたお客様の変化

-常に挑戦し続ける大川代表ですが、大切にしている言葉はありますか。

「先義後利」と言う言葉で、義を先にし、利を後にするものは栄える、という考え方です。例えば、当社はサプライチェーンとして関わるパートナー企業と脱炭素や再エネをテーマにした無料の勉強会を自主的に開催してきました。嬉しいことに、この勉強会が契機となり、パートナー企業が100%再エネに切り替えるなどの動きが出てきています。すぐに利益にならずとも「共感・共鳴」してくれる仲間を増やし、活動の輪を広げることが、当社の価値を高めると考えています。

-本業を通じて社会課題解決に取り組んできたことで見えてきた成果はありますか。

学生や取引のない他社の経営者まで、「大川印刷のファンです」と言ってくれる方が増えました。数年前までは、「印刷業界は大変ですね」と声をかけられることが多かったですが、今では、「環境印刷と言えば大川印刷だよね」という声に変わりました。これも「先義後利」の経営に取り組んできた成果だと思います。これからも「ソーシャルプリンティングカンパニー®=社会的印刷会社」の誇りを持って歩んでいきたいです。ペーパーレス時代の中でも印刷業だからこそ生み出せる価値は必ずあると思っています。

ウェルカムボードでお出迎えくださいました


【企業情報】
 株式会社大川印刷
 代表取締役社長 大川 哲郎(おおかわ てつお)
 神奈川県横浜市戸塚区上矢部町2053

-編集後記-
大川代表との出会いは5年前に遡ります。いつお会いしても笑顔で、時代の潮流を先読みしながら、新たなビジネスを展開されています。その秘訣は「先義後利」の考え方なのだと今回の取材を通じて改めて気付きました。大川代表が今後も紡いでいく物語を大川ファンの一人として「共感・共鳴」していきたいと思います。 
                            担当特派員ST