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関東大震災から100年、マニュアルを越えてくるのが災害です~災害時の自治体サポートの取組~

関東経済産業局が実施する施策には、「現場」の実情を踏まえたオリジナリティの高い取組があります。それら施策に取り組む職員が思いや取組の裏側を語る「施策の深層」。

第3回は、近年、自然災害が激甚化・頻発化する中で、災害発生時、自治体との迅速な連携を目指している、危機管理・災害対策室の新井和樹さんに話を聞きました。

新井 和樹:危機管理・災害対策室 災害対策専門官

関東経済産業局の災害対応業務とは?

-関東経済産業局が災害対応業務に取り組んでいることは、あまり世の中に知られていません。どのようなミッションを担っているのでしょうか。

おっしゃるとおり、当局の取組は、まだまだ知られていないのが現状です。
実は、私が所属している危機管理・災害対策室は、令和元年の台風15号、19号の教訓を踏まえ、令和2年度に設置されました。令和元年の台風の際、被害を受けた自治体に当局職員を派遣しましたが、経済産業省は何ができるんだと、職員の受け入れに難色を示した自治体もありました。
 
発災時の経済産業省の役割は、大きく分けてエネルギー供給、物資調達、被災企業支援の3点です。
経済産業省本省が「平時」から各自治体と細かなコミュニケーションを取ることは難しいので、当局が管内各都県の防災担当部局と「平時」からコミュニケーションをとるようにしています。例えば、リエゾン(国と自治体の繋ぎ役となる職員)を派遣する場所やタイミングを摺り合わせたり、発災時における経済産業省の役割を説明したりするなど、自治体の防災部局と顔の見える関係を構築することで、有事の際のスムーズな連携に繋げることが、当局に与えられたミッションと言えます。

-令和元年の台風がきっかけで災害対応に着手したとのことですが、どのように自治体をサポートするのでしょうか。

例えば発災した直後、自治体では人命優先で対応を行うため、物資や燃料の調達、企業の被害状況の把握等に手が回らない場合があります。その際、当局職員が発災直後に都県の災害対策本部や被災現場に入ることで、物資や燃料のニーズ、商工関係の被害について確認することで、自治体の職員をサポートすることができます。

防災グッズの一部

被災現場で見た姿に自身を重ねる

-PCに「佐賀さいこう!」のシールが貼ってありますね。

これは令和3年8月に発生した豪雨災害において、佐賀県庁に派遣された際にいただいたものです。当時の県の幹部から貼るように言われまして(笑)。

-佐賀県への派遣では、どのような役割を担ったのでしょうか。

中小企業庁出向時の経験を買われて、大雨災害を激甚災害に指定するか判断するために必要な、中小企業の被害額の算定業務をサポートするために派遣されました。被災している中小企業の実態を明らかにするミッションで、発災後1週間ぐらいの時期に伺いました。

-実際、現地に行って、どのようなことを感じましたか。

私はその時が初めての被災地派遣で、佐賀県と広島県に伺いました。
実は、私の実家は豆腐屋を経営しています。両親2人でやっている小さなお店なのですが、現地で被災している事業者の中にも私の両親と同じように夫婦で小さなお店を経営されている方が多くいらっしゃいました。浸水の爪痕が残る被災現場において、経営者の方に被災状況をお伺いする傍らで、経営者の息子さんが浸水して壊れてしまった機械や材木を泣く泣く片付けている姿を見て、胸に迫るものがあり、何とかして支援したいという気持ちが強く湧いたのを覚えています。
 
実際、佐賀県でも広島県でも、被災した企業の経営者から何とかしてくださいといった声をたくさんいただきました。調査を踏まえた結果、佐賀県では政府による中小企業への復興支援策が講じられましたが、広島県では県全体としての被害が比較的限定的なものと判断され、支援策を講じることができませんでした。事業者目線で見れば同様に被災しているのに、地域全体の被災状況によって、支援策を活用できない事業者が出てきてしまうことに非常にもどかしい思いをしました。
被災者支援は公務員の重大な使命です。入局前に憧れた華々しい業務ではないのですが、やりがいがある業務だと思っています。

「佐賀さいこう!」が貼ってあるPC

知名度不足と経験不足をいかに乗り越えるか

-自治体をサポートする中で、課題と感じていることは何ですか。

まずは、圧倒的に当局の知名度が不足しています。通常業務を通じて都県の産業労働部との付き合いはありますが、各都県の防災部局に対しては、「経済産業局」の名前がまったく浸透していないのが現状です。そのため、都県の防災部局を訪問するなどして、定期的にコミュニケーションをとるようにしています。
また、令和元年の2つの台風以降、自治体にリエゾンを派遣していないため、職員の経験が不足しています。これは、幸運にも管内で派遣が必要なほど大きな災害が発生していないためであり、どうにもならない部分なのですが・・・。
そのような中、これまでに当局からリエゾンを派遣していない都県では、当局の取組が認知されていないので、平時から距離感をどのように縮めるかが課題です。当局を身近に感じていただかないと、有事の際にスムーズな連携が取りづらい状況になってしまいます。

-自治体との距離感を縮めるために工夫していることはありますか?

都県が実施する防災訓練に参加することです。我々が日頃コミュニケーションを取っている先は防災部局なのですが、有事の際、防災部局は災害対策本部の運営にあたることが多く、物資や燃料の調達に直接的に関わらないことが少なくありません。物資・燃料の調達は、自治体の別部局の職員の方が担うケースがあり、防災訓練に参加することによって、初めて担当者と繋がることができます。
 
しかも、自治体によって、物資や燃料の担当者はバラバラです。担当課がはっきり決まっておらず、複数の担当課から1名ずつ職員が集まるケースもあります。加えて、せっかく知り合えた担当者が人事異動により担当を外れることもあり、その場合は再度関係を構築する必要があります。有事を想定した取組は、平時の業務と違う難しさがありますね。

危機管理・災害対策室 新井専門官

備えても備えても備えきれない、それが災害

-刻々と事態が変化する実際の被災現場では、マニュアル化も必要だと思いますが、臨機応変な対応も必要であり、さじ加減が難しいですよね

恐らく、被災地に派遣されると、誰もがみな「いっぱいいっぱいになる」と思います。マニュアルを超えるのが災害であり、マニュアルどおりに事が進むことはあまりないと思っています。
災害対応で難しい点は、いつくるのかわからないものに対して備えなければならないことです。どんなに訓練しても、いざとなったら大変になるでしょうし、どう想定して備えていくかは、永遠の課題だと思っています。備えても備えても、備え切ることはないと思います。訓練によって「カイゼン」を重ねていくしかありません。

-気象災害が激甚化・頻発化する中で、行政機関は災害対応力を高める必要があります。自治体へメッセージがあればお願いします。

自治体から、「国へのお願いはハードルが高い」と言われます。特に、発災直後は人命優先であるため、当局担当者をリエゾンとして派遣されても、時間を持て余しますよとよく言われます。その点は覚悟の上でリエゾンを都県庁舎や被災地に派遣していますし、我々の出る幕がないなら、それに越したことはないと思っています。
経済産業省は企業支援のみが本務と思われがちですが、燃料・物資の調達は人命にとっても必要なものです。空振り覚悟の上、リエゾン派遣をしていますので、是非リエゾンを受け入れて頂ければありがたいです。

-9月1日、関東大震災から100年の節目を迎えます。災害対策の担当者として企業へのメッセージもお願いします。

まずは、自社に迫るリスクに対して、目の前のできる対策を取ることが大切だと思っています。例えば、浸水対策として、避難する前にPCなどの電子機器を2階に上げるだけでも被害は変わるかもしれません。日頃から意識して置き場所の検討や整理をしておくことが重要です。
2点目は、損害保険に加入することです。多くの企業は火災保険には加入していますが、水災特約(水災が原因で財物に被害が生じた損害を補償する制度)を付帯している企業は多くなく、肌感覚で全事業者の4割弱ぐらいだと思っています。加えて、水災特約を付帯していたとしても、どんな補償内容か自身で把握しておらず、いざという時に損害保険金が下りないというケースも過去にはありました。
特に工場・工業団地などはハザードマップ上で浸水リスクがある場所に立地しているケースが少なくないので、損害保険の更新時に自社の水災リスクをきちんと見定めた上で、適切なプランを締結してもらえればと思っています。

危機管理・災害対策室メンバー(ポロシャツは防災用)

「災害・防災」に関するご紹介
関東経済産業局では、近年の災害対応の経験や教訓等を共有し、行政機関の災害対応力を高めることを目的に「防災フォーラム」を開催しています。
令和5年は「災害時における経済産業省の役割」をテーマに、9月28日、29日と2日間にかけて開催する予定です。「物資調達」や「燃料供給」、「電力復旧」など、当省が災害時において自治体と連携して対応する主な内容を担当者から具体的に説明しますので、自治体をはじめご関心がお有りになる行政機関の皆様は、是非、お申し込みください。