『身近な町医者』のような存在になりたい
支援者は私の天職
―須田さんが支援者になられたきっかけは何ですか?
倒産の経験を通じて、経営者が孤独だということを身をもって知りました。また、経営者の無知は従業員をはじめ、利害関係者にとって罪悪だという強い認識を持ちました。
そのとき相談対応いただいた中小企業診断士の方から「この経験を人のために活かしましょう」と助言をいただいたことをきっかけに診断士資格を取得して支援者となりました。現在は、当時の自分と同じように事業経営に苦慮する経営者の「身近な町医者」のような存在になりたいという想いを持って活動しています。
―支援者となって、嬉しかった事や苦労された事を教えて下さい。
嬉しかった事は、経営者と膝を突き合わせて経営改善策について検討する際に、事業者が「なるほど!」と腹落ちする瞬間や、計画策定後しばらくして「おかげさまで順調に経営しているよ。」と経過報告をいただく時です。そういった言葉が聞きたくて、地道に取り組んでいます。そんな時は、支援者になった経緯を振り返って「これは私の天職だな」と勝手に悦に入っております。
苦労した事といえば、残念ながら改善に至らず法的整理を余儀なくされる事案に立ち合ったことです。病気で言うと末期的な状況に陥っているにもかかわらず、倒産をなんとか回避しようとする経営者の方も多くおられました。経営者の心情は良く理解できますが、そのために経営者やそのご家族、従業員が大変な負担を負うことになりますので、自分の経験をお伝えするなど、経営者が倒産を前向きに捉えられるように最後まで寄り添いました。
―経営者の心の扉を開ける秘策はお持ちでしょうか?
話をよく聞くことだと思います。心を開いて、お話ししていただけるコツをつかむのに、3~4年はかかりました。まずは、お話をよく聞くこと、話を整理し、患部がどこにあるかを見極め、本音を聞き出すことが大切だと思います。
「地域中小・小規模企業の町医者であろう」というのが私の初志です。問診と検査(分析)で、課題を導き出してそれを代表者に腹落ちしてもらう、その過程で「なるほど!」と声が出るような、その過程を丁寧に行うよう心がけています。
経営改善過程に至っている企業は、経営者に問題があることも少なくないです。また、「経営者の無知は罪悪」という認識から、良し悪しは別として、支援には時に「熱が入りすぎる」こともありますね。
―何故、『よろず』で活動しようと思ったのですか。
先に述べた家業倒産の際にお世話になった中小企業診断士の方が、栃木よろず創設以来、チーフコーディネーターとして活動されており、その方からチーフ後継者として指名されたからです。 60歳を迎えるにあたり、栃木県中小企業診断士会の会長就任も予定されていた時期で、その方からは「そろそろ若い世代を育てることを考える時期じゃないか」と言われ、その方が私にしてくださったように、私が次の世代にその恩返しをする、そんな使命感のようなものから、お引き受けしました。
よろずのチーフとなり、専門分野人材のネットワークの中で、これまで一人では手の届かなかった実効性ある支援を提供できる、その有効性を実感しました。
栃木ならではの特徴~他機関連携・廃業支援・人材~
―他機関と上手く連携して行く上での秘訣はありますか。
栃木県は県内金融機関の一時国有化以来、他の金融機関はじめ保証協会、診断協会、支援機関が一体になって、経営改善に取り組んできた経緯があります。当時の各機関のプレイヤーの人脈・ネットワークが現在も生きており、企業支援に関して、組織を超えて人的なまとまりが形成されている点が特徴だと思います。
そのような過去の経緯から、保証協会や活性化協議会が行う経営改善計画策定に関わる専門家派遣支援に県診断協会が連携する関係が構築されています。しかし計画を策定しても収益改善が伴わない例も少なくないという支援機関等からの意見を受けて、計画策定にとどまらない実効性ある本業支援を提供するために、金融機関や各支援機関と協議して、計画策定支援はもちろん計画合意後も栃木よろずが伴走支援を継続する、実行支援体制を構築しました。
このように栃木県では、経営改善・本業支援、事業の終活支援について、栃木よろずと保証協 会、活性化協議会、事業承継引継ぎ支援センター、中小企業診断士会の 5 機関連携が進んでいます。特に今年度より保証協会から出向者を受け入れ、さらなる本業支援機能の強化を推進する予定です。
―廃業支援に力を入れているのはなぜですか。
先代のチーフコーディネーターは、経営悪化が深刻な小規模・中小企業等がなかなか相談できない・相談する機関がないという理由から適切な経営判断ができずにさらに深刻化することを問題視していました。よろずこそ、そのような問題を解決する相談の窓口として有効だと考え廃業支援を 重要なテーマとして取り組んできたためです。
数年は地道に取り組んでおりましたが、コロナ禍を経て廃業相談件数も昨年の倍のペースで増加し、注目されるようになってきました。
後継者がいなければいずれ事業承継・廃業を考える時期が来ます。昨今の大きな潮目の転換に乗り切れなければ不本意な廃業を余儀なくされることもあるでしょう。それら廃業を経営戦略の一つと捉え中長期的に計画的に取り組むことを提言するようになりました。「事業の終活」として長いスパンでとらえると、事業承継・経営改善の早期のステージから、それらが困難な終末期のステージに分けられます。早期の診断・相談で経営改善や事業承継等により円滑な廃業ができればよいのですが、終末期のステージでご相談に来られる事案が多く、その場合、弁護士や活性化協議会に繋ぎ法的整理・経営者保証ガイドラインの活用など、つないだ後も相談者に伴走して、「看取り」ではありませんが、拠り所として支援を行っています。「結果は倒産になったけれど、よろずさんに面倒見てもらって、心強かったよ。どうもありがとう。」と言ってもらえるような支援を目指します。
―組織を向上させていくため人材育成に取り組んでいることはありますか。
栃木県中小企業診断士会には診断士が 114 名ほどいます。コミュニケーションがとりやすい規模なので、特に若い世代にネットワークや人脈をつなげていくことを心がけています。新入会員、特に若い世代をよろずに引き込み、研修を任せたりノウハウを伝えたりして、次の世代の育成を心がけています。逆に私たちも若い世代から教えられることも多いです。
栃木よろずの特徴は、他の支援機関との連携関係の強さだと認識していますので、あらゆるニーズを満たすべく、チームで実効性のある支援を提供することに重点を置いています。まだ仕組みとしてうまくいっていない面もありますが、「地域小規模・中小企業の、ゆりかごから墓場まで、安心して事業経営に取り組める、拠り所である」ことをミッションに、成果につながる支援を提供することに取り組んでいます。
支援への思い
―相談者に伴走して、支援を行っているその熱量はどこから来るのでしょうか
やはり自分の経験から来るのだと思います。
倒産の経験をした時にお世話になった先輩診断士から受けた恩恵を、生かしたい、役立てたいと思う気持ちです。この企業は、法的整理しかないのではないかと思う企業でも、後継者がいたりすれば事業再生の方法はないか、後継者の再チャレンジの道はないかなど、考えます。
―今後力を入れて行きたいことはありますか?
本業支援です。
小規模事業者では支援の手が回らず、収益低下→迷走→資金繰りが悪化→不適切な借入れ→代位弁済・廃業に至るケースがあります。早期の助言で救える小規模事業者の廃業を抑えたいと思っています。
増加傾向にある小規模事業者の代位弁済件数を抑えようとする信用保証協会と情報の共有ができるようになったため、信用保証協会が資金繰り表作成支援を行っている小規模事業者に対する支援を共同で実施していきたいと思います。
支援者に向けて
―最後に支援者へメッセージをお願いします。
支援者にはそれぞれ得意分野があるので、ネットワークを活用しつつ、自分自身を磨いてもらえればと思います。また、企業診断にあたっては、謙虚であることを忘れずに。支援者同士、我々も支援策を一緒に考えたいと思います。まずは、相談にきてほしい。私たちは、ネットワークを通じていろいろな提案、方策を一緒に考えます。
【プロフィール】
須田 秀規(すだ ひでのり)
栃木県よろず支援拠点チーフコーディネーター中小企業診断士
実家のスーパーマーケットを経営するも倒産
実家の事業承継から倒産を経て、H8 年より中小企業診断士としてよろず支援事業に参加