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「当事者意識を持って、支援をさせていただく」-事業者の商売繁盛のため、現場に立ち続ける経営指導員の矜持。

こんにちは、関東経済産業局 経営支援課です。
地域への熱い思いを持って奮闘するキーパーソンに、その情熱のルーツや取組などを伺う「地域HOTパーソン」。今回の地域HOTパーソンは、鎌倉商工会議所で経営支援の最前線に立ち続ける斎藤 暁(さいとう あきら)さんです。
斎藤さんは「当事者意識を持った支援」を大切にされ、その一環として毎日続けている取組があるそうです。「頼りになる部活の先輩のような存在」と事業者から慕われている斎藤さんに、その取組や経営支援にかける思いを伺いました。

知識だけでなく、現場の経験を積み重ねる

-経営指導員として20年以上活動されているそうですね。

はい。1996年に鎌倉商工会議所に入り、2001年に経営指導員となりました。現在は管理職の立場になりましたが、経営指導員として日々現場に出て支援に取り組んでいます。事業者の方に会うことが本当に大好きなんですよ。

ただ、入所したての頃は「自分が社長の相談に乗るなんてとてもできない」と思っていました。それまで社長と接した経験がなく、自分に全く自信がなかったんです。

そこで、拠り所となる資格を取ろうと、「2級以上の資格を4つ以上取得する『2×4計画』」を自分に課して実行しました。

簿記・販売士・英検それぞれ2級以上を取得し、経営指導員としてのキャリアをスタートさせ、就任後に社会保険労務士と宅建士(宅地建物取引主任者)を取得しました。

-経営指導員になる前に入念に準備されたのですね。

はい。ただ実際には、資格を持っているだけでは現場で通用しません。特に今は、インターネットで大抵の知識を得ることができる時代です。経営支援に取り組む上では、現場の経験を積み重ねることが非常に大切だと感じています。

「商売繁盛」を支援する

-どのような経営支援を行っているのでしょうか。

事業者の方の「商売繁盛」を支援する、これが私の根底にある考えです。事業者の方が相談に来るのは、現状を何とかしたいと思っているからです。当事者意識を持って相談をお聞きし、解決のために様々な提案をさせて頂きます。

事業を後押しするために「小規模持続化補助金」の活用を支援することも多くあります。過去に相当数の支援実績がありますので、実例に基づいて「これを行うとこの様な効果が生まれやすい」という具体的なお話をさせていただくようにしています。

鎌倉という土地柄、飲食業からのご相談が多いのですが、設備導入に関するご相談に応えるため、自分でも厨房機器の展示会に行くなどして勉強していますよ。「斎藤さんと話していると厨房機器メーカーの人と話しているみたいだ」なんて言われたりもします(笑)

支援の様子。当事者意識を持った対応を心掛けている

「聞く耳」を持ってもらうために、毎日ブログを更新

-支援にあたって心掛けていることはありますか。

相談者に対して常に敬意を払い、「支援してあげる」ではなく「支援をさせていただく」という立場であること、そして「当事者意識を持って支援に取り組むこと」を大切にしています。

また、こちらからの提案を実際に行動に移していただくためには、単にアドバイスをするだけでは難しいと思っています。なぜかというと、事業者ご自身が納得しておらず、「聞く耳」を持てていないからです。「聞く耳」を持っていただくためには、まずは自分自身が範を見せる必要があります。

そこで、個人的に継続していることの1つがブログです。あるWeb関係の研修で「ブログは新規顧客の開拓に有効」と聞いて「じゃあ自分でやってみよう」と思い、それ以来ほぼ毎日ブログを更新し続けています。正直けっこう大変なのですが(笑)、実際に私のブログがWeb検索で上位になっていることを見ていただくことで、説得力が格段に変わるんです。

ユーモアを交えながらインタビューに答える斎藤さん

-具体的な支援の例を教えてください。

当所に相談にいらしたワイン販売店のお話です。店舗での販売の他にインターネット通販を実施していましたが、価格競争に巻き込まれ、何とかしたいというぼんやりとした不安を抱えていらっしゃいました。

決算書を確認すると、粗利が低く、売上があっても利益が取りづらい社内体質でした。そのため、利益率の改善をどう実現するかが支援のポイントでした。

一方で、インターネット通販の売上は決して悪い数字ではありませんでした。何故、これだけの売上が出ているのかを伺うと、「代表者・妻・正社員の3名がソムリエの資格を保有している」、「フランスの自然派ワインを仕入れ販売している」、そして「インターネット通販にてメルマガをほぼ毎日配信している」とのことでした。

このうちメルマガについては、「登録者にお店情報を配信でき、一定程度の反応があるので売上には貢献している」とのご認識でした。ただ私はそれを聞いて、相当もったいない状態だと思いました。なぜなら、メルマガは「登録している方」にしか情報が配信されず、ネット上で検索されにくいメディアだからです。

そこで、「メルマガで発信している内容を、ネット上で検索されやすいブログで発信してみてはどうですか?」と提案しました。ここで役立つのが私自身のブログです。検索で上位に表示されることを実際に見ていただき、メルマガよりもブログの方が検索でヒットしやすいことを理解いただきました。メルマガの「フロー型」からブログの「ストック型」に情報発信のやり方を変える事で、同じ販促努力でも効果が違うことを納得いただいた瞬間でした。

その後、ブログで開拓した新規顧客に直販する仕組みを構築し、売上・利益率とも順調に伸びていらっしゃいます。

ワイン販売店のお子さんが描いた似顔絵。経営のピンチを助ける「さいとうヒーロー」

敬意と当事者意識を持った支援を実践

-支援者として、転機になった出来事はありますか。

以前、私の支援に対する意識が大きく変わるきっかけとなった出来事がありました。

市内で長年製造小売業を行っている事業者の方とのお話です。私は、先代の時代から融資や労働保険等で、継続的に支援をさせていただいていました。

その後、先代が体調を崩されて逝去され、息子さんが事業を継がれる事になりました。先代には、私がまだ経営指導員の駆け出しだった頃に可愛がっていただいたご恩もあり、息子さんが事業を継がれた後、事業が円滑に運営できるよう支援をさせていただきました。

そんな中、巡回支援でこちらのお店を訪問した際のことです。ちょっとした雑談になり、私が結婚する事をお伝えしました。すると、それを聞いた先代の奥様が、涙を浮かべながら祝福して下さったんです。

この時、「経営指導員から見た支援先は数多い支援先の一つかもしれないけれど、事業者から見た経営指導員は1/1の存在なんだ」と強く感じました。それ以来、支援をさせていただく際には、他人事ではなく「自分事」として、当事者意識を持って相談対応をさせていただくようになりました。

事業者のお役に立ち続けたい

-今後の抱負について教えてください。

今まで以上に「事業者の方のお役に立ち続ける」ことです。役に立つことで頼りにされ、口コミが広がって相談に来ていただけることは、この仕事の報酬だと思っています。

環境が目まぐるしく変化する時代ではありますが、今後も現場に出て学び続け、支援を進化させていきたいです。もちろん、ブログも更新していきますよ。大変な時もありますが、「あきらめたらそこで試合終了」ですから(笑)

【プロフィール】
斎藤 暁(さいとう あきら)
1996年に鎌倉商工会議所へ入所。2001年より経営指導員。2018年より中小企業支援課長。
小規模事業者持続化補助金活用支援の実績は全国でも指折り。
2016年9月より「経営指導員ブログ」を更新中。

【編集後記】
時に熱く、時にユーモアも交えながら、丁寧にインタビューに答えていただいた斎藤さん。「当事者意識を持つ」、「支援は『させていただく』もの」といった言葉に、経営支援にかける思いを強く感じました。