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「古木」の価値を世界へ!~三代目社長の熱き想い~

経営者の情熱を発信するProject CHAIN第44弾。今回は長野県長野市に本社を置く、株式会社山翠舎の山上浩明(やまかみ・ひろあき)社長にインタビューしました。同社は、古民家の再生・移築・解体をはじめ、古木を活かした内装の設計から施工までをワンストップサービスとして提供する創業94年の地域でも有数の老舗企業です。山上社長は、2004年に同社に入社、2012年に代表取締役社長に就任されました。社長業と並行して事業構想大学院で事業構想修士を取得するなど常に学びを大切にされています。社会問題にもなっている空き家問題の解決を目指すべく、新たな取組に挑戦中の山上社長。高いモチベーションの根源にあるものとはなにか?山上社長にお話を伺いました。

深く身に染みついた「内輪(うちわ)を大切にする」という意識。会社のため、職人さんのため、自分自身にできる仕事を。

-山上社長の幼少時代について教えてください。

当時の山翠舎は、長野県内のゼネコンの下請けという立場でした。ファーストフード店などの建築に関わっていましたので、お店がオープンした際には家族皆で行っていました。また、自宅の前が工場という職人さん達と触れ合う機会が常にある環境で育ったので、職人さん達にはよく遊んでもらいました。休憩時間におやつを出したり、新年会で実家に関係者が集まった時にはお酌をしたり。お酌をすると職人さん達がすごく喜んでくれて、それがとても嬉しかったことを今でも覚えています。

-山翠舎を継ぐことについてはどのように考えていたのでしょうか。

中高時代にぼんやりとではありますが、継ぐのかなと意識していた時期がありました。ですが、正直に言うと、前向きではありませんでした。建築家になるイメージがなかったからです。先代はパワフルで、バリバリ仕事をこなすタイプ。私はそういうタイプではないので「自分にできるのか?」と不安で、継ぐことについて前向きに考えられなかったからかもしれません。
一方で、父親の背中を見ていたこともあって事業をしてみたいという想いは人一倍強く、学生時代からスタートアップとしてWebページ製作をしていました。続けていればそれなりの結果を残せる自信はありましたが、その先の発展がイメージできずに断念しました。それと同時に、私自身のレベルアップの必要性を感じ、その後は、大学時代に2つの論文を書くほど勉強に専念しました。

熟練の職人技術により、古木に新たな価値を与える。建材として蘇らせ、再利用へつなげている。

-山上社長は、どういった想いを持ってビジネスに取り組んでるのですか?

「職人さん達からかわいがってもらった」という思い出が心の中にあったので、お酌して喜んでくれた職人さん達にどう恩返しするか?私の代で何かできることはないか?そんな想いで行動してきました。
その根本は、「内輪(うちわ)を大切にしなさい」と親族から言われ、育ったことだと思います。私は山上家の長男として生まれ、内輪の概念を教わる中で、自分自身は歴史の中の一時点に過ぎない私の代で何ができるのかを自問自答するようになりました。山翠舎だけが良ければいいというのではなく、どうすれば我々に関わる人たちと良いビジネスができるのかを常に考えています。
また、社員や関係者からよく突破力があると言われます。こう言われるのは、私の中に「もったいない精神」があるからだと思います。いわゆる貧乏性ですね(笑)。小さい頃から、ものごとを批判的に見る癖がついているので、古民家は解体して立て直したほうが安いという業界の常識を疑いたい想いが、古木関連のビジネスを開始したことにつながりました。事業構想大学院で事業構想修士を取得したので特にそう思うのですが、やみくもにビジネスを広げているわけではなく、コア事業とのシナジーを常に考えて新規事業は設計しています。ここまでビジネスをしてきたなら、軌跡を残さないともったいないですから。

笑顔が印象的な山上社長。
インタビューでは、優しい笑顔の奥にあるビジネスへの熱い想いを語っていただきました。

古木はアート!古木に見出した新たな価値。その価値を理解してくれる人の元に届けたい。

-仕事をする上で意識していることはありますか?

2018年のアントレプレナーオブ・ザ・イヤーというピッチイベントに甲信越代表として出場した際、私のブラッシュアップのために関係者が時間をかけてご尽力をいただいたにもかかわらず、全国大会ではトロフィーをもらえなかった悔しい経験があります。その時に、魅力的に相手に伝える力を養う必要性を痛感し、事業構想大学院への入学を決意しました。振り返ると私の人生は、「マイナス体験から、何か行動を起こす」の繰り返しだったような気がします。
そして、ポリシーとして持っているのは「体感すること」です。身銭を切って体感してこそ得られるものは、世の中にたくさんあります。ある企業の戦略が良いと思えば、店舗に出向いたり、グッズを買ってみたりという体感は、関連書籍に書かれている以上の情報を得ることができます。オーダーの世界を体験するという意味で、社会人になってからはオーダースーツを作り、それなりのブランドの革靴も無理して買いました。そうすることで、これは新卒のときにあの店で買ったものだとか、ストーリーを持たせることができます。話題の物に触れることで、時代の変化に気づくことができるでしょうし、ラグジュアリーな方向性で海外展開したければ、高級な椅子も買ってみる。提供する側ではなく消費者側にならないと、見えてこないことがあります。直感的に「高価だな」とネガティブになりがちですが、体感することでその良さを理解できると思っています。こういった経験から製品にどう価値を与えどう伝えていくかということは、常に意識するようにしています。

自社倉庫では5,000本以上の古木をストックしており、入手経緯等をデータベース化。
店舗や住宅の設計施工に生かしている。

-古木に価値を与えるビジネスで成長されている。古木をどう捉えていらっしゃいますか?

父方の祖父は建具職人、母方の祖父は材木商という私のルーツを考えた時に、「古民家をどう活用するのか」は天命だと感じているので、人生をかけて取り組んでいこうと決めています。山翠舎では2006年から「古木」をテーマにコツコツ取り組んできました。2024年はありがたいことにニューズウィーク日本版SDGsアワード2023最優秀賞として評価され、ひとつひとつ着実に取り組んできたことが認められたようでとても嬉しかったです。
また、2023年に海外進出にあたっては、古木によって空間としての価値を高める国内方針とは戦略を変え、プロダクトとして展開しています。海外には古木がないので、日本の古木は存在するだけで付加価値がつきますし、評価してもらえます。実際に現代美術作家のシアスター・ゲイツ氏とコラボレーションし、古民家から得られた古材を使用した大型什器を制作、古木がアートの世界に踏み出し、ビジネスが広がりつつあります。
海外進出し始めてから感じたことですが、機能的なものに人間は固定概念が働き、価格にリミットをつけてしまいます。絵画の値段を見ればアートの経済的な価値がわかるかと思いますが、無限大ですよね。アートはひとつの最たる例だと思います。人によって感じ方や評価の仕方は違いますから。

シアスター・ゲイツ展サイト

アメリカ・シカゴの現代美術作家シアスター・ゲイツ氏が、山翠舎の倉庫を訪問。
展示会に向け展示什器製作の打合せを実施。
「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」にて、
株式会社山翠舎が共同して古木を使用した展示什器を製作展示。

壊さずに、活かす。古民家・古木を次の世代へ継承するための決意。

-今後、目指していることを教えてください。

今、目指しているのは、古民家デベロッパーになることです。私たちが背中を見せる形で、古木を活用した空間を積極的にプロデュースし、古民家・古木の需要を増やしていく。IT用語でいうなら、古民家・古木のプラットフォーマーですね。山翠「舎」という屋根の下、建築関係者が集まり、すばらしい建築をつくるのが今まででした。これからはその概念を拡大させていく。空き古民家の情報が集まり、事業者が集まり、投資家が集まるプラットフォームを作る。
私は、何気なく入った飲食店や宿泊施設が素晴らしいと思ったら、実はそれが古民家や古木の空間だったことに後から気付くということを目指したい。それにより、利用者が自然と古民家・古木のファンになっていく。そのファンが増えて行き、世界中のファンが古民家・古木空間を意識的に訪れる流れをつくりたい。そうすれば、古民家が壊されることのない世界になるはずです。世界中の人が、木の素晴らしさを理解する世界をつくりたいと考えています。山翠舎がその先頭に立って、実現していきます。

【企業情報】
株式会社山翠舎
代表取締役社長 山上 浩明
本社:長野県長野市大字大豆島4349-10
東京支社:東京都渋谷区広尾3-12-30

書籍紹介:‶捨てるもの″からビジネスをつくる~ 失われる古民家が循環するサステナブルな経済のしくみ~

―編集後記―
インタビュー中にあった「マイナス体験から、何か行動を起こす」と言う言葉がとても印象的でした。この積み重ねが、賞の受賞や海外進出などあらゆることに繋がっているように思います。山上社長の心の中にある職人さん達への想いや内輪を大切にする等の理念が、山上社長と山翠舎の現状を作り出していると感じました。チャレンジする、行動を起こすということの大切さを身にしみて感じられるインタビューとなりました。(担当特派員DK)