見出し画像

平坦ではなかった道のり~「ものづくりのまち川崎」で挑戦を続ける4代目社長

経営者の情熱を発信していく“Project CHAIN”の第29弾。今回は神奈川県川崎市に本社を構える株式会社スタックスの星野 佳史(ほしの よしふみ)社長です。同社は精密板金加工とアルミ溶接加工を展開しており、技術力の高さから人工衛星や医療機器などの幅広い分野で製品が活用されております。2020年4月に4代目社長として就任された星野社長に、生い立ちや経営者としての想いを伺いました!

祖父から後継者として期待された幼少期、距離を置いた学生時代、入社を決心した26歳

―星野社長の幼少期について教えて下さい。

私が生まれて間もない頃に父が病気で亡くなり、物心が付いたときには母方の祖父が社長で母が専務に就いていました。当時は1階が作業場、2階が住居という環境で、親子3代で生活していました。私は2人姉弟の長男であったせいか 、保育園に通っている頃から祖父には「将来はお前が会社を経営するんだぞ」と言われていましたね。

例えば、祖父と一緒にお風呂に入っているときも「経営者と従業員との距離感」を説かれたりとか…。「祖父と孫」というより、「経営者と部下」のような関係で経営者教育を受けてきました。

―会社を継ぐことは幼い頃から決めていたのでしょうか。

小学校に入学したころ、母、姉とともに横浜へ転居し、祖父とは物理的にも精神的にも少し距離が置かれました。加えて、自我が目覚めてきたこともあり、祖父とはズレを感じるようになりました。高学年になり将来の夢について、作文を書いた際も、祖父を慮って「社長になること」と書く一方で、本心は別にありました。高校生になった時には、そのズレが嫌悪感へと変わっており、大学では将来の職業の選択肢を広げるため、法律を専攻しました。卒業が近くなると、祖父から「いつ入社するんだ?」と言われるようになりましたが、卒業後もアルバイトをしながら趣味のバンド活動を続けていました。

―そのような中、入社を決めたきっかけは何かあったのでしょうか。また入社後のキャリアについても教えて頂けますでしょうか。

26歳になりバンド活動に一旦区切りがつきました。その際、今まで不自由なく育つことができたのは私が生まれ育った株式会社スタックスのおかげであるという思いを抱くようになり、これからは会社へ恩返しをしていきたいと考え、入社を決意しました。ベテラン社員が多くいる中、私自身が技術を極めていくよりは、経営のプロになった方が良いと考え、経営管理に重点を置き研鑽を積みました。金融機関との折衝も社長就任前から行っていました。

生地やデザイン、カラーにこだわったユニホームを着た星野社長。これまでの生い立ちや経営者としての想い等をお話頂く。

―社長に就任されたきっかけは何だったのでしょうか?

前社長である母から、私が30代のうちに事業承継をしたいと言われていたことがきっかけです。コンサルタントの先生に相談したところ、先生からは「事業承継カレンダーを作り、お尻を決め、逆算でマイルストーンを置いていきましょう」というアドバイスを頂きました。前社長が定年の65歳となるタイミングで承継する設定をし、その3年ほど前から準備をしました。コロナ禍になってしまいましたが、ゴールを設定し、しっかりと準備を進めていたこともあり、予定通り承継を行うことができました。

「ものづくりの会社」であることを大切にしたい。社員とともに100年企業を目指して

―社長就任以来、大切にされていることは何でしょうか。

「企業として変えてはいけないもの」、「変えていかなければならないもの」を表現する「不易流行」という言葉を大切にしています。
業界は、自動化による大量生産に特化する企業と、小ロットではあるが人によるものづくりにこだわり製品に付加価値をつけていく企業に二極化しています。当社は後者の考えでものづくりを行ってきましたが、これからも質の高い製品を世の中に供給していくことで差別化を図っていきたいと考えています。

他方、「どんな仕事でも断るな」という祖父からの教えがあります。今後も大切にしていきたい考えではありますが、「特徴のない、まちの板金屋」になってはいけないとも考えています。今後も当社のものづくりの強みを前面に出していく営業スタイルを貫き、プレゼンスを高めていきたいです。また、会社として利益を追求するならば、例えばサービス業に転換するという選択肢もあるかもしれませんが、私は、人の介在や人の作り出す価値を大切にしたいので、「ものづくりの会社」であることにはこだわりたいと思っています。

―社員への想いについてご教示頂けますでしょうか。

当社で働いていることを誇りに思えたり、退職後も当社で働いて良かったと思える会社づくりをしていくことが私にとっての「正義」だと思っています。そのためにも風通しが良く、協力しあえる職場環境づくりを実現させていきたいです。

70周年を節目に、会社の作業服(ユニフォーム)を刷新しました。金属加工の業界では機能性が重視され、かっこいい作業服を着る文化がなかったのですが、作業服とは会社の看板であり、毎日これを着ることで仕事に向かうスイッチが入るもの。そのため、社内でリニューアルプロジェクトを立ち上げ、じっくり時間をかけて生地やデザインを決めました。若い社員が会社の近所を出歩いても違和感無いデザインにしています。

―最後に今後チャレンジしたいことをお聞かせください。

創業70年を経過し100周年も見えてきたところですが、私自身が社長として100年を迎えることにはこだわってはいません。「人が介在するものづくり」を大切にし、創業100年を迎えられる人材を育て、見届けていきたいです。また、将来的には自らの経験を踏まえ、人材育成等に悩んでいる同業他社へのコンサルティングなどにもチャレンジしていきたいと考えています。そのためにも日々社員とともに切磋琢磨しながら経営を行っていきたいですね。

最新のファイバーレーザー加工機を導入しており、高反射材(銅・真鍮・アルミ)のレーザー切断加工が可能。(画像提供:株式会社 スタックス)
溶接が難しい薄物(0.3mm~0.5mm)もYAGレーザー溶接によって歪みを最小限に抑えて加工が可能。(画像提供:株式会社 スタックス)

【企業概要】
 株式会社 スタックス
 代表取締役社長 星野 佳史(ほしの よしふみ)
 神奈川県川崎市中原区下沼部1750

【編集後記】
幼少期や入社までの経緯等をお聞きし、自分とは全く異なる人生を歩まれていることに驚くとともに感銘を受けました。また、星野社長は社員の方々のことをお話される際、特に熱く、楽しそうにお話をされていたのが印象的であり、「人」を大切にしながらものづくりに取り組む想いを肌で感じました!
                           派遣特派員 IS