『スポーツ』が持つ多様な価値に着目! ~スポーツ産業を核とした地域サービス業の競争力強化等の取組~
地域サービス産業の稼ぐ力の向上に向けて
-スポーツを活用したサービス産業強化に取り組むようになったきっかけを教えて下さい
2年前に地域サービス事業者の稼ぐ力の向上に向けた支援の方向性を検討する研究会を開催し、その際、「企業間連携」の重要性が認識されたことがキッカケです。サービス産業の場合、企業間連携を促進しようとしても、例えば飲食店などは競合が多く、連携が難しい現状があります。
一方、プロスポーツクラブは地域内に競合他社が少なく、様々な事業者や組織と結びつく力があるので、“スポーツ”に着目して地域のサービス産業支援を進めていく方向になりました。
―どのような取組を行っているのでしょうか
これまでに、サービス産業強化のリーディングプロジェクトのうち、スポーツ関連では、長岡市、磐田市、甲府市の3地域で実施しました。
例えば、甲府地域では、地域のオーガナイザーとしてブランディング会社に入っていただき、デザイン思考を取り入れながら、ヴァンフォーレ甲府(サッカーJリーグチーム)をハブとして企業間連携を促進するプロジェクトを実施しました。
また、切り口が違いますが、スポーツも関連する取組として、長野県ではNICOLLAP(一般社団法人長野ITコラボレーションプラットフォーム)が中心となった観光DXの検討を行いました。長野県はウィンタースポーツが有名ですが、海外から観光客がきても、夜、飲食店に行くための交通手段が乏しいです。そういった課題をDXで解決するコミュニティを作りました。
―昨年度、様々なプロスポーツクラブを集めたピッチ・ネットワークイベントも実施していましたね
ピッチ・ネットワークイベントは、新たな協業パートナーを見つけてもらうキッカケ作りのため開催しました。プロスポーツクラブとの連携・協業等に関心がある500名が集まり、大変盛況でした。
次のステップは、具体的な協業プロジェクトを作ることです。我々としては、プロジェクトの核となるスポーツクラブやサービス事業者を発掘していきたいと思っています。
スポーツのエンゲージメント力、ハブ機能、ブランド力に着目
-当局の取組に賛同いただくため、工夫したことはありますか
最初に必ず我々の思いを説明していました。当局は、スポーツの他者を巻き込むエンゲージメント力、ハブ機能、域外需要を獲得できるブランド力に着目していること、スポーツをハブにして地域のサービス事業者と新しいイノベーションやプロジェクトを興こしていきたいことなど、目的をしっかり伝え、理解・共感を得た上で、一緒に取り組んでいくことを大事にしていました。
-我々の取組のどのような点に共感いただけたのでしょうか
プロスポーツクラブとはいえ、マンパワーに限りがある中、自分達の力だけで地域の様々な事業者と連携を進めていくことは大変です。その点、当局と連携すれば地域を巻き込んだプロジェクトとして取組を進めることができます。
―企業間連携を進めるにあたってどのような障壁がありますか
地域で事業を推進できるオーガナイザーが不足しています。プロスポーツクラブのハブ機能に着目していましたが、クラブ自体は人的リソースが不足しており、オーガナイザーの機能を果たすことは難しい現状です。そのため、中間支援組織など、オーガナイザーとして地域で事業を引っ張ってくれる存在が必要だと思っています。
また、一般論として、中間支援組織の場合は予算面での課題があります。1年目は当局など行政の支援を受けられたとしても、2年目以降は地域・民間主体で進めてもらう必要があります。
加えて、スポーツに対する意識の問題もあるように思います。先般、自治体に対してスポーツ産業振興に係るアンケートを実施したのですが、回答部署が教育委員会などのいわゆる教育系である自治体も多くありました。地域ではスポーツを「産業」としてではなく、「体育」の意識で捉えている実態もあると思います。
―地域全体のサービス産業の稼ぐ力向上に繋げられる道筋は見えているのでしょうか
例えば、スタジアムまで観に来たお客さんが、観戦と一緒に地域を観光すれば、飲食店だけではなく、お土産屋さん、宿泊施設などが儲かります。周遊、宿泊で消費が生まれるよう、うまく地域を循環してもらえるといいなと思っています。
また、人口減少下においては、外需の獲得も大事だと思います。各クラブにおいて努力していると思いますが、チケットの英語対応や地域全体での環境整備など、ハードルが高いのが現状です。
プロスポーツクラブのマネタイズにも課題
-プロスポーツクラブ自体のマネタイズにも課題があるように思います
プロスポーツはどうしても「競技」が優先されます。「勝つこと」が至上命題であるため、新規事業の優先順位は下がってしまうことが多いです。一方で、勝つだけでは、収益構造は改善しないので、新たな取組への挑戦も大事かと思います。
―海外ではスポーツ産業が付加価値を獲得しています
スポーツにもよりますが、収益構造が日本とは違います。海外では、放映権収入が大きいケースのほか、クラブ自体がスタジアムを持ちそれを活用して収益の柱にしているケース、環境対応を進めESG投資を集めたりしているケースなどがあります。
加えて、スポンサーアクティベーションの考え方が浸透しています。日本のスポンサーは、ユニフォームに社名を掲載するなど広告としての活用がメインですが、海外の場合、スポンサー企業もプロスポーツクラブを活用しようという意識が強くあります。日本はこの点が弱いです。スポーツクラブには様々な強みがあるので、その点を生かすことが重要だと思っています。
スポーツが持つ力を信じて
―自腹でスポーツ観戦に行っていると聞きました
観戦すると理解が深まるので、なるべく観るようにしています。実はサッカープロリーグを観たことがなかったのですが、昨年度、初めてヴァンフォーレ甲府の試合を観戦しました。磐田市までラグビー観戦にも行きました。応援に行くと不思議と愛着が湧くことも、スポーツの持つ力ですね。
―スポーツは好きですか
小学生の時はクラブチームに入ってハンドボールを、中高生ではバスケットボールをやっていました!
―プロスポーツクラブに伝えたいメッセージはありますか
私が感じたように、スポーツには人を引きつける力があります。我々行政のみならず、様々な産業を結びつけ、ネットワークのハブになる力を持っていると思います。競技力の向上はもちろん重要ですが、新しいイノベーション、地域での新しい動きなどに挑戦できるポテンシャルがあると思っていますので、収益の柱を増やす観点からも、我々の取組に賛同いただけると嬉しいです。
―地域のサービス事業者に対するメッセージはありますか
人口減少の中、GDPの7割を占めるサービス産業の稼ぐ力が向上することは、とても重要です。企業間連携などを通じ、ある程度のスケールメリットも追求しながら、新たな取組にチャレンジしていくことが肝要だと思っています。ぜひ「スポーツの力」の活用をご検討いただければと思います。
【当局HP】
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/ryutsu/sisckanto/index.html