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業界にイノベーションを!食品流通革命児が世界の夜明けに見るものは

経営者の情熱を発信する“Project CHAIN”第39弾。今回は特殊冷凍ソリューションを提供するデイブレイク株式会社(東京都品川区)の木下昌之(きのした まさゆき)代表取締役社長・CEOを紹介します。木下社長は2013年に「食品流通の夜明けを目指す。」をミッションにデイブレイクを設立し、現在は特殊急速冷凍機(フリーザー)である「アートロックフリーザー」の開発・製造・販売を手がけ、顧客への価値提供に努めています。“食品流通革命児”として特殊冷凍の最先端を走る木下社長を紹介します。

暗闇の中で見つけた革命の果実

-起業を決意したきっかけをお教えください。

将来は父の跡を自分が継ぐのだろうと思い、家業の冷凍機会社で働いていましたが、業界の先行きを見るとビジネスモデルにも限界があり、どうも暗い先しか見えなかった。自分は本当にこのままで良いのかと自問する中で、30代の時に自分探しの旅をしようと思い、東南アジアの国々を巡りました。
タイである果物を初めて口にしたのですが、それは現地栽培のマンゴスチンでした。とにかく甘くて鮮度が高い、こんな果物を日本でも食べることができたら・・・。しかし、こんなに美味しい果物を売っているのに行商人は裕福そうにはとても見えない。これは何か“課題”があるのかもしれないと考えました。実際のところ、マンゴスチンは鮮度が落ちると売れなくなり、廃棄せざるを得ないとの話を現地の人から聞きました。
自分に冷凍空調設備の知識があったことから、こうした課題を解決する切り口として「冷凍」にたどり着いたわけですが、起業を決意した根底には「自分自身にしかできない商売」「人から尊敬される仕事」「社会貢献」の3つがあります。
起業当時はフードロスという言葉は既にありましたが、SDGsという言葉はまだ存在していなかった時代です。今ではサーキュラーエコノミーという概念も企業活動の中で意識され始めていますが、作り手や売り手に対していかに利益を循環させられるかといった課題をどうすれば解決できるかは、当時から考えていました。いっそのこと起業するなら業界にイノベーションを起こしたいという思いもあり、2013年にデイブレイクを立ち上げました。

デイブレイクの立ち上げについて熱く語る木下社長

特殊急速冷凍の可能性。モノ売りで終わらない、コト売りを通じた価値提供へ

-どのような事業を展開していますか?

設立当初は自社製品を売るスタイルではなく、他社の急速冷凍機の直販やコンサルティング業務からスタートし、2021年に自社開発の特殊急速冷凍機「アートロックフリーザー」を発売しました。研究開発を重ね、風の粒子を小さくし、空気制御技術により食材・食品を360度全方位から冷やすことで高品質な冷凍を実現する「マイクロウィンドシステム」を搭載しています。アートロックフリーザーは食材・食品に冷風を優しく当てることで冷凍ムラがなく、鮮度を保ったまま急速冷凍できる、いわば“タイムカプセル”のような冷凍機です。食材・食品の形状によって冷風の当て方や時間は異なるため、冷凍の質を均一化できるようにAI機能を充実させた機種の開発を現在進めています。

「これがフリーザーなのか?」と言われるほど、工業デザインにもこだわりました。ただの無機質な機械ではなくユーザビリティーを考えて設計し、置いているだけで存在感があり、使う側をワクワクさせることで愛着が湧く製品になっています。
特殊冷凍はフードロス削減のみならず、生産者や販売者の収益性向上につながる技術です。例えば作物が豊作の時に余剰作物を冷凍しておけば、凶作による市場価格の高騰を抑えることも可能です。お弁当屋さんでも事前に調理済みの食材を冷凍しておけば、朝早くから仕込みのための労力をかけず計画生産できます。

特殊冷凍ショールームでは実際に食品を持ち込み、デモ試験に対応(上)
新オフィスのキッチンスペースは仲間との憩いの場に(下)

伴走して一緒に考え、広がる顧客の輪

-経営で重視していることは何ですか?

父から言われた言葉ではありますが、会社を経営してみて「信頼は対価」だと感じています。ちゃんとした仕事であること、誠実であること、顧客の課題に“伴走”して向き合えるかが重要です。代理店販売だと商圏の縛りや、売れば終わりになりがちですが、当社は以前からユーザーからの指摘や困りごとなどに向き合い、顧客に寄り添うことを大切にしてきました。モノ売りではなく、コト売りを通じて顧客へ特殊冷凍ソリューションを提供していると自負しております。

例えば、顧客ニーズを拾い続けた結果、顧客を巻き込んだ「デイブレイクファミリー会」を発足しています(のべ100社以上参加)。ファミリー会ではユーザーである生産者や販売者が食材・食品を持ち寄り、アートロックフリーザーの使い方や冷凍ノウハウを発表、共有する交流の場としています。
食材・食品一つを取っても形状は異なるため、同じ冷凍方法が最適であるとは限りません。逆に解凍も難しい工程です。例えば冷凍したお寿司を解凍する場合、シャリは人肌くらいの温度が理想ですが、美味しい状態で冷凍できても、解凍工程によってネタに解凍ムラが生じてしまうため、美味しさが損なわれます。当社は多くの顧客の困りごとに対して一緒に考えることでノウハウをレシピ化し、冷凍・解凍の両面から最適なソリューションを提案しています。

また、これまでにも「美味しくフードロス削減」をコンセプトに、不揃いの大きさやキズなどの理由で廃棄されてしまう国産フルーツを、特殊冷凍技術で“風味は生、食感はサクサク”に作り変えたフローズンフルーツを販売する「HenoHeno」というブランドを立ち上げました。
立ち上げ後にマーケティングの識者であるフィリップ・コトラー氏に出会ったことは今でも記憶に深く残っています。知り合いが主催する朝食会に参加した際にパーティーに誘われ、来日中のコトラー氏を紹介されました。ブランド概念を伝えHenoHenoの商品を食べていただきましたが、翌日の講演会でコトラー氏から「デイブレイクはCSV(Creating Shared Value=共有価値の創造)を実践している数少ない企業である」と紹介されとても驚きました。「ただ儲けるではなく、課題を解決する意識」を持ち続け、社会課題の解決を通じて自社の利益につなげることが大切だとあらためて感じています。

のべ100社以上がファミリー会に参加(左)。フィリップ・コトラー氏との出会いはSNSでも多くの反響を呼んだ(画像提供:デイブレイク株式会社)

目指す先は海外。世界で勝ち抜きイノベーションを起こす

-立ち上げから人も増え、活気に溢れていますね。

デイブレイクにはITやマーケティング、セールス担当など多様なバックグランドを持つ人材が集まっています。社員数は約70人、平均年齢は33歳ですが、創業時のメンバーである自分(45歳)が平均年齢を上げています。
設立して11年が経ちますが、設立当初の苦労を知らない社員も増え、現在のデイブレイクが当たり前だと感じることもあるでしょう。人が集まれば集まるほど、「共通の視座」を設定することが難しくなります。社内プロジェクトを実施する場合、課題を見える化・言語化し共通認識として整えることが必要です。
こういう社会を作っていきたいというビジョンは常に伝え続けていますが、「築城十年、落城一日」という言葉の通り、築いてきた信頼を失うのはあっという間かもしれません。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の諺のように、人が集まり事業が大きく成長するほど、初心を忘れず誠実であり続けることが必要だと感じています。

-今後の展望をお聞かせ下さい。

2019年から毎月10日程度は八丈島を生活拠点にしています。アートロックフリーザーを現地に持ち込み島民の方々に使っていただいていますが、島嶼部は天候不良時に物流が滞ることもあるため、食料備蓄にも役立ちます。島の飲食店やホテルの方々にも使っていただき、交流を通じてファンを増やしています。
当社の事業は次第に認知されるようになりましたが、まだまだリーチできていないエリアは多くあります。より水産物や農産物の生産地に近く巨大な市場が見込めることから、2023年12月に冷凍研究設備を備えた札幌ショールームを開設しました。これを皮切りに日本各地に拠点を整備し、デイブレイクの輪を広げていきます。
今年1月にはアメリカのラスベガスで開催された「CES2024」に初出展し、アートロックフリーザーは技術的にも高く評価されました。フードテック産業はブルーオーシャンな業界ですが、今後は国内のみならず海外の顧客獲得を通じて世界で勝てるグローバルニッチを目指します。

八丈島では現地島民や仲間との交流拠点に(画像提供:デイブレイク株式会社)

【企業概要】
デイブレイク株式会社
代表取締役 木下 昌之(きのした まさゆき)
東京都品川区東品川2-6-4 G1ビル3F

-編集後記-
前職時代にデイブレイクや他社を取材する中で冷凍技術の可能性に触れ、これまでの冷凍に対するイメージが180度変わりました。これまでにも多くの経営者の方々との出会いはありましたが、木下社長はとにかく明るく、気さくで人を惹き付ける“色気”があります。食品流通革命児として新しいビジネスモデルを創造する-デイブレイクにはミッションに共鳴する多様な人材が集まっています。世界へ打って出るデイブレイクとセクシーな木下社長から目が離せません。
                                                                                                 派遣特派員 WS