新しい経営支援を実践し、拡げていく~地域の応援隊である関係人口を増やし、新たな魅力創造につなげる~
広域指導員としてやりがいが持てるような職場作りを
―今年度から広域指導員に着任されたかと思います。
元々商工会に入ったのは、現場で実践できる仕事に魅力を感じ、地域で頑張っているお店や企業の支援を通じて町の新たな魅力づくりや地域活性化に貢献したいと思ったためです。
広域指導員には前任者からの推薦をきっかけに着任しました。県内に53もの商工会があると、声の大きい指導員が目立つのかもしれません(笑)
広域指導員の仕事は多岐にわたりますが、私が広域指導員として取り組むべき一番の課題だと思っていることは「若手の育成」です。若い経営指導員もやりがいを持てるような仕事にしたいという思いから、先輩指導員がそのような職場作りをしていかなければいけないと思っています。
―具体的にどのような活動をされているのでしょうか。
埼玉県内の商工会から支援依頼をいただいた際に派遣される仕組みで、派遣先でどのような案件や支援に取り組むかを話し合って決めます。
例えば私が出向したことがある小川町商工会では、人的ネットワークを活かして、若手職員と関係支援機関とともに、経営革新計画の事業化支援として海外展開の支援を行っています。
また、長瀞町商工会、皆野町商工会、桶川市商工会では、経営発達支援計画に基づく新たな需要の開拓支援として、製造業支援のための支援環境構築や、展示会出展支援による販路開拓などを進めています。
和光市商工会や児玉地域4商工会では、経験の浅い職員への支援として経営力再構築伴走支援の研修や同行企業巡回による支援能力の向上、商工会の支援環境の構築支援など、商工会毎の課題などに合わせた支援を行っています。これらの取組は、寄居町商工会での経験を活かして取り組んでいます。
地域の関係人口を創出し、地域全体で盛り上がる
―寄居町商工会で笠原さんが主導して行った取組について教えてください。
2019~2020年、寄居町商工会が主体となり、行政や企業などの関係機関と一体で地域課題解決型事業LAYERS HOOP YORII(レイヤーズフープヨリイ)に取り組みました。「無名の町に、無名の新人あつまれ」というコンセプトで、寄居町の新たな魅力の創造や関係人口の創出、移住や創業への発展を目標とした取組となります。
具体的には、地域企業3社から課題を提供してもらい、その課題解決に協力してくれる人を募集しました。メンターの他、デザイナーやプロデューサー、カメラマン、WEBデザイナーなど、多様なスキルを持って地域課題解決を実践している方々や学生など合計30名ほどが集まり、課題解決に向けてアイデア創出や事業化支援等を行いました。
結果として、課題提供いただいた企業の新事業展開につながりました。これまでのように、新たな経営資源を投入するのでは無く、参加者が持ち寄った経営資源で対応できる内容であった点がこの取組のポイントとなります。
―地域支援に力をいれられているのですね。
LAYERS HOOP YORII(レイヤーズフープヨリイ)に参加された方の中にはUターンで寄居町に戻ってきた方や、寄居町に移住される方がいました。その方達が創業したり、新たな事業をはじめたりと、新たな魅力や産業の創出、空き店舗対策等にも繋がっています。
今回関係したメンバーがその後も寄居町に関係を持ち続けていただき、新事業のお手伝いや新たな人の繋がりをつくっていただいたりと、今後の商工会の新たな支援環境として「地域の関係人口」を増やすことが、地域全体の盛り上がりのためにも大切だと思っています。
ワークライフシナジー、ワークライフブレンドで忙しい中にも心の豊かさを
―これまで経営指導員として様々な経験を積まれてきたかと思いますが、仕事をする上で大事にしていることはありますか。
企業をリスペクトして、身近なパートナーとして役に立ちたいという思いを常に持っています。地域企業への支援をしっかり行っていき、地域の魅力をしっかり知って、外に伝えていくことが重要だと思います。一方で地域密着に偏りすぎると外的ネットワークが弱くなってしまうので、外部の協力を得られるような取組をしていくことが大事です。
―経営指導員は大変な仕事かと思いますが。
よく言われるワークライフバランスは、仕事とプライベートの分量の調和の話ですが、仕事も生活も相乗効果を生み出すような「ワークライフシナジー」を起こせると良いと思っています。寄居町では2拠点生活をしている方もいますが、働き方も自由になったので心の豊かさを求めるような考え方は大事だと思います。
また、商工会の仕事は「ワークライフブレンド」と言えると思います。仕事とプライベートを区別しないで人生を楽しむというスタイルです。経営指導員の仕事はその道のプロと関わることができ、本やネットでは学べないような実体験を大人の社会科見学として学ぶことができます。色々なことを学べる充実度はお金で得ることができない豊かさに繋がっています。そういった点からも、企業支援はとてもやりがいのある仕事だと感じています。
Think Global, Act Local.を大事に!
―最後に、今後の展望を教えてください。
若い人にやりがいを持って仕事をしてほしいという点で、埼玉県内商工会職員で自主研究交流グループ「経営革新研究会」を2021年から実施しています。「楽しく学び、真面目に遊ぶ」というコンセプトのもと、有志で活動しています。
税務などのいわゆる経営改善普及事業は、形式知を学べば現場に落とし込めますが、伴走支援は暗黙知の部分が大きいと感じており、そのため実践型のケーススタディが大事になってきます。広域指導員の立場となって、この活動を商工会の実務に落としていけたらと考えています。
また、寄居町を新しい経営支援を実践できる場として考えており、それを県内全域に波及していければと思っています。経営支援の心得として「Think Global, Act Local.(グローバルな視野で考え、地域で行動せよ)」を大事にしていこうと思います。
【プロフィール】
笠原 亮彦(かさはら あきひこ)
1993年、川本町商工会(現ふかや市商工会)に入会。2007年より寄居町商工会に着任し、2023年から埼玉県商工会連合会の広域指導員として活動。
中小企業の経営革新、海外展開、事業承継、創業、地域資源活用等の幅広い経営支援を担うほか、創業や新事業に関し事業計画から事業化まで一貫した経営支援を実施している。