「Beer Beautiful」ビールの楽しさを伝えたい
地ビールからクラフトビール「COEDOビール」誕生へ
- 出自や学生時代について教えて下さい
先祖代々川越で、曾祖父は明治時代に紡績会社を立ち上げ、祖父の時代は戦争の影響もあり紡績会社をたたみ農業を行っていました。父は大企業のエンジニアでした。「協同商事」の創業者は義理の父になります。
高校生の頃の興味は「会社を経営する・事業を興す事」「料理人になる事」「哲学者になる事」の3つでした。
高校時代は日本国内を、大学時代には沢木耕太郎の紀行小説「深夜特急」の影響もあり、バックパックで海外へ行き目的も当ても無い旅をよくしていました。
当時のインドや中国などインフラの整っていない地域を訪れるうちに「日本の技術力で社会インフラに貢献するような仕事って面白そうだ」と思い、大学卒業後は三菱重工(株)に就職しプラントの輸出営業を担当していました。
- 三菱重工から協同商事へ転職された背景を教えて下さい
協同商事は当時の彼女(現在の奥様)の実家で、高校生の頃はスポット的に手伝っていたのですが、まさか、会社を引き継ぐことになるとは思ってもいませんでした。
当時の社長から声をかけて頂いたのですが、周囲で転職に賛成する人は誰もいませんでした。
ただ、自分の人生設計を考えたときに、日本の大企業では経営に参画できるまでに長い時間がかかりますが、協同商事であれば早くから経営に参画する機会に恵まれる可能性があると思いました。また、協同商事は下請けに入ったことは無く、ベンチャースピリッツがありました。有機農産物の専門商社として「日本の新しい農業を切り開く」という同社の「アグリビジネス」「アグリベンチャー」という考え方に賛同した、ということもあります。
― 協同商事に転職した当初どのような状況だったのでしょうか?
最初の印象は一言で言うと「カオス」でした。
会計制度を整え、事業の取捨選択をしていく中で、一番重い課題を抱えていたのがビール事業でした。工場の稼働率を上げる目的のため採算度外視で廉価版のビールを販売するような事もしていました。
私なりに自分の会社をコンサルの視点で見ると、ビール事業は撤退するか、あるいは抜本的にやり直すか、という考えに至りました。
- ビール事業の課題をどのように乗り越えたのでしょうか?
私自身が全面的にコミットしないとどうにもならないと思い、ビール事業の再構築をスタートしました。既に工場設備もあり、ドイツの技術者から習得した生産技術もありましたので、若手の技術者と一緒に再整理すれば、地ビールにありがちだった土産物産業としてではなく、食品産業として再生できるのではないかと思いました。
― ビール事業に可能性を感じた原動力は何だったのでしょうか?
気がついたのですよね。ビールは絶対面白いって!
当時は「地ビール=土産物」のイメージが強く浸透しており、ビール本来の魅力が正しく理解されていませんでした。本来、ビールは種類が多く、物凄く幅の広い飲み物であり、「食」として純粋に色々な楽しみ方があります。
私には、ロンドンのパブやミュンヘンのビアホール等で「ビールを皆で楽しむ」という姿が旅の原体験としてありました。ビールを「食として楽しむ」という風景を、本来は協同商事も目指したかったのではないか、皆でわいわい楽しむというのはビールの「液体としての性質」なのかもしれない、と考えたのです。アメリカでも「クラフトビール」というものが生まれつつある頃で、これは凄く面白いのではとも思いました。
COEDOビールのブランディング哲学
― 「COEDOビール」のブランディングで大切にしていることは何でしょうか?
「Beer Beautiful」というコンセプトを知っていただく、という事がとにかく大切だと思っています。「ビールって面白いよね、楽しいよね、美味しいよね」という、ビール本来の素晴らしい要素を知っていただきたいです。
デザインは、素朴さではなく、スタイリッシュで「洗練」されたイメージを大切にしました。これまでの「お土産物でダサい」というマイナスのイメージから、まずフラットに戻す必要がありました。
- プロデュースやブランディング戦略の視点はどのようにして生まれたのでしょうか?
自分の会社をコンサルタント目線で客観的に見ています。振り返って考えてみると、高校が私服だった事がパーソナルブランディングの大切さが磨かれる場になったような気がします。客観性と主観性、そのような気づきや考える場というのが凄く大事だと思います。他己像と自己像が一致する、それがブランディングだと自分は考えています。
また、デザインという要素は絶対に必要だと思っていましたが、社内にデザイナーはいなかったので社外パートナーに入ってもらいました。プロジェクトを組成し、チームとしてやっていくと良い仕事ができます。仕事はプロジェクトだと思っています。
―ビールの楽しみ方を伝えるために、どのような工夫をされているのでしょうか?
ビールを楽しんでもらうために様々なコンタクトポイントを用意するようにしています。音楽フェスや、食とのコラボレーション、デザインに興味のある方にはデザインアワードがきっかけになるかもしれません。大切な事は「ビールは面白い」というメッセージが常に一貫していることです。
また、ビールには色々キャラクターがあって、それを選ぶ楽しさを伝えたかったため、最初は5種類、今は6種類を定番商品として提供しています。人間が快くモノを選べるのは大体5~6くらいという「選択の科学」という心理学にも基づいていますが、そもそも私が「キャラクターが分散した時に認知できるのは5つくらいだろう」と直感的に思っていた、ということもあります。7種類目は、イレギュラーな限定商品やコラボ商品等で、いつも変化しています。
―海外へも進出されているかと思いますが、どのような状況でしょうか?
現在は30カ国に輸出しています。私自身、海外に対してボーダレスな意識があったので、最初から海外も意識して商品開発しています。近年では日本食のレストラン等で扱っている事が多いですね。クラフトビールの認知度も高まってきているので、COEDOビールのポジションも確実に高まっていると思っています。
農業系ブリュワリーとしてのチャレンジ
― 今後の展望など教えて下さい
COEDOビールとして「農業系ブリュワリー」を形あるものにしていきたいと思っています。例えば、ワインであればブドウ畑やブドウが取れる地域が大切にされていますが、そのようなことをビールでも感じて貰いたいと思い、自社農園を増やそうとしています。耕作放棄地も活用して行く予定です。
この醸造所でも3年間かけて土壌改良し、今ではオーガニックで麦を作れるようになりました。有機農業をもっと身近にしていきたいという思いもあります。「ビールって農産物なんだ」という事をもっと意識していただくために、麦からプロデュースしていく事をどんどんトライしていきたいと思っています。
【企業概要】
株式会社協同商事 コエドブルワリー
代表取締役社長 朝霧 重治(あさぎり しげはる)
埼玉県川越市中台南2-20-1