「やりたいこと、好きなことを起点に」-仲間を集め増殖しながら、まちの活性化のための土壌をつくる「菌のヒト」-
アパレル勤務から結城商工会議所の経営指導員へ
-以前はアパレル企業に勤務されていたとのことですが、経営指導員になろうと思ったきっかけを教えてください。
自身のライフスタイルを見直したいという思いから、Uターンで地元に戻ってきました。地元で父が商工会議所の職員をしていて、子供の頃に地元の人から「お父さんにはお世話になっているよ」と言われていたので、「商工会議所はまちの人から頼られる存在なんだ」と子供ながらに思っていました。せっかく地元に戻ってきたらやりたいことをやりたいと考えていたので、地域の総合経済団体という立場で地域と向き合いたいと思い、結城で商工会議所の職員になりました。
-前職の経験は現在の活動にも活きていますか?
クリエイティブな活動ができるという面では活かせている気がします。クリエイティブな面はファッションでいう「ハズし」ですね。全部をハズしてしまうとダサくなってしまうように、やりすぎてしまうと商工会議所職員という立場から逸脱し、公私混同になってしまう。商工会議所職員というところに自分の個性、「ハズし」を取り入れて、結城の地域振興につながる活動になれば、それは成果として見てもらえるので、成果を出すことで自分たちとしても次の展開に進んでいけるのかなと思っています。
「やりたいことをやろう」と始めた「結いプロジェクト」
-2010年に「結いプロジェクト」を立ち上げられたとのことですが、なぜこのプロジェクトを始めたのですか?
結城では、高齢化でシャッターを下ろしても、その裏にはそのまま家主が住んでいる・・・というようなお店が多くありました。地方でも多様なチャレンジが必要となる一方で、高齢化したまちでは新しいチャレンジを受け入れる土壌が出来ていませんでした。そこで、商工会議所という立場を活かし、先駆的に地域を巻き込みながら、挑戦しやすいまちの土壌作りに取り組みたいと考え、「結いプロジェクト」を立ち上げました。
「どうせなら自分たちがやりたいことをやれる場にしよう」ということで、一般の方に向けて参加を募ったところ、フォトライターや芸術学部の学生、建築士、結城紬の産地問屋で働く若手スタッフなど、多様なスキルを持つ人が集まりました。商工会議所というフィルターを通して、それぞれの持つ多様なスキルを活かした、自分らしい活動をできるような土壌を作ろうというのがプロジェクトの出発点です。
-そうして、始めたのが「結い市」ですか?
はい、「結い市」は最初マルシェから始めました。現在では、音楽ライブ、アートやスタンプラリー、トークイベント等も開催し、2日間で2万人が来場する一大観光イベントにまで育ちました。「結い市」では空き店舗や蔵、神社などが出店会場になります。お客さんに結城のまちを歩いてもらうことでまちの魅力に触れてもらったり、お試し出店で結城に商いの機会があることを知ってもらうことが目的です。
実際に「結い市」での出店から、その後に結城でお店を始めた方もいます。また、2日間の出店にあたって空き店舗の所有者と出店者がコミュニケーションを取るなかで、所有者の思いなどを聞けたことが、利活用の提案のきっかけになり、実際の利活用につながった店舗もあります。
-実際の地域への出店や空き家の利活用などの成果にもつながっているんですね。ほかにも「結いプロジェクト」では様々な取組が行われていますね。
10月の結い市と、もう一つ年間で中心となる行事を作りたいなと思って始めたのが、春の音楽イベント「結いのおと」です。結城紬の問屋、寺、酒蔵など結城のいろいろな建物をライブ会場として、お客さんがタイムテーブルを持ってまちを回遊しながら楽しむというものです。
また、最近では、結城を訪れた人にまちとの関係を深めてもらうための場として、HOTEL「TEN」を整備しました。せっかく結城を訪れてくれたのに、最後に泊まるのがビジネスホテルではもったいないですからね。TENは味噌や酒といった「発酵」をテーマとした宿になっています。お客さんをしっかりとつかんで呼び込んでいきたいですし、1つでは終わらず、ほかにも、まちのゾーニングに合わせた宿を展開していきたいと思っています。
仲間を集めて、活動しやすい土壌を作る「菌のヒト」たる所以
-様々な取組をされていますが、そのアイデアはどうやって浮かぶのですか?
「地域のために頑張ろう!」と何か考えるというよりは、マルシェだったり音楽ライブだったり、好きなこと、やりたいことを起点に地域の資源に目を向けてそれを活用するというイメージですね。そうすると、地域の方ともコミュニケーションを取ったりするなかで、嫌でも地域の課題が見えてきちゃうんですよね。どうやったら課題を解決できるか考えて、自分たちのやりたいことと地域の課題のベクトルが同じ方向を向くと地域の人たちが応援側にまわってくれるんです。
「誰も応援してくれなくてもやる」というのは自分としてはちょっと違うと思っています。やりたいことを続けて行くことで周囲の人が同じ方向を向いてくるというのが成功だと思うので。「若い人たちが勝手にやってるから」とは思われないように、建物の住人やオーナーなど地域の人たちもないがしろにしない、ということを心がけてきました。
先日、「結いのおと」の次年度開催を発表したのですが、ポンと突然ネットで出すだけではなく、その前にいつ、どんなことをやるのか、地元の人たちに事前に説明しています。面と向かって、膝をつき合わせて会うことを大事にしていて、ときには自分と反対の意見を持っている人もいますが、コミュニケーションをとるうちに、考えが変わらなくても理解は示してくれるようになるんですよね。
-そうやって誰もないがしろにせずに、巻き込んでいくことで地域の方々の考え方にも変化を生んでいるのかもしれませんね。
取組を始めたころよりもなんだかみんな垢抜けてきたような気がします(笑)。自分たちのやってきた事業が徐々にいい形になってきたなという印象はあります。最初は好きなことができればよいと思っていましたが、少しずつ人が集まり始め、好循環が生まれてきました。
商工会議所が地域活性化に取り組む意義
-結城という地域の活性化において、商工会議所の立場だからこそできることは何だと思いますか?
商工会議所という信頼、看板はすごく大きいものであり、これは先輩たちが作ってきてくれた轍だと思っています。情報化社会で誰でも支援情報が得やすくなり、無料の経営相談も増えてきた中で、地域の総合経済団体という商工会議所の存在意義が問われていますが、地域に密着して、地域振興をしていく役割、それは商工会議所ならではの動きだと思います。
私は商工会議所の職員としてずっと結城にいるので、その安心感が地域の信頼につながっていると感じています。これからも、地域に寄り添った経済団体として地域の活性化に取り組んでいきたいと思っていますし、それが商工会議所や地方に求められていることだと思います。
-最後に支援者へのメッセージをお願いします。
私の場合、自分のやりたいことを仕事にしています。誰もが好きなことで飯を食える訳でありませんが、今の仕事で自分の才能を活かす工夫はできると思います。それが「好きなことで飯を食う」ということだと私は思っています。仕事の中で、自分の持ち味を活かす工夫をしていけば、ひと味違ったモチベーションが生まれると思うので、皆様にもぜひそういった工夫を実践していただければと思います!
【プロフィール】
野口 純一(のぐち じゅんいち)
結城商工会議所経営相談所長。
アパレル企業での勤務を経て、2008年に結城商工会議所へ就職。
2010年より「結いプロジェクト」を立ち上げ、結城の地域活性化に向けた多様な取組を展開している。