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「1つのオレンジを皆で分け合うには?」明るく楽しく対等に働く会社のしかけ

経営者の情熱を発信していく“Project CHAIN”。第3回目は東京都品川区に本社がある株式会社吉村の橋本久美子社長です。主力製品は食品のパッケージで、日本茶の茶袋のトップメーカーです。同社はデジタル印刷技術を活用して、商品の価値がより伝わるようなオリジナルパッケージの提案や製造を行っています。
同社には多くの方が見学に訪れたり、営業しなくても8,000を超える顧客から多くの仕事の依頼が飛び込んできます。その理由は、社員が楽しく働ける環境づくりや、失敗に寛容でチャレンジを重んじるしかけにあるようです

社員のすてきな意見を大切にしたい

-株式会社吉村では社長だけが何かを決めるのではなく、みんなで意見を出し合うと聞きました。どうしてそんな仕組みにしたのですか。

あるセミナーで「1つのオレンジをみんなでwin-winに分けあうにはどうしたらいいか?」という問いに出会ったことがきっかけなんです。切る、ジュースにする…。セミナーでは色々な意見が出たので、私も様々な階層の社員に同じ問いを投げかけてみました。すると「オレンジでケーキを焼く」とか「オレンジの種を植えて実を増やす」とか、すてきな意見が出てきた一方で、「オレンジは諸悪の根源なので無かったことにする」という意見もあり、大きなショックを受けました。
トップダウン型の組織では、社員には多様な考えや意見があるけれども、上に立つ人の判断によって握り潰されてしまう可能性があることに気が付きました。だから、誰もが対等に、活発に意見を出し合えて、様々なチャレンジも出来る組織にしようと考えたのです。

株式会社吉村の製品Leaf Tea Cupの前であたたかい笑顔の橋本社長。
Leaf Tea Cupはいつでも、どこでも、いれたて新鮮な日本茶を楽しむことができる優れモノ。

失敗も笑い話に!みんなのモチベーションを上げる「自律会議」

-社員が対等に意見を出し合うというのは素晴らしい仕組みだと思いますが、具体的にどのような工夫がありますか。

「自律会議」という会議のルールを決めて、役職に関わらず全員が意見を言う仕組みを作っています。具体的には、会議の中で司会、書記、タイムキーパーといった役割を固定せず、会議の参加者全員が交代しながらやる、全員が必ず発言する、発言の時間は1人1分まで、というものです。会議でありがちなこととして、役職の高い人が一方的に話したり、全く発言しない人がいたりするんですよね。でも会議術に則って会議をやると、社長の私が発言していても1分経ったら「1分経ちました!終わり!」って打ち切られるんです。また、全員に発言の機会が回ってくるので、ただ聞いているということもできないのです。

-自律会議!おもしろいですね。

1つのことを決めるのに全員が意見を言うので、当事者意識が芽生えますし、実行に移していくときも、自分が決めたことを形にするぞ!とやる気が湧いてくるんですよ。そのために大切にしていることがあります。それは社員の発言に対し必ずポジティブな意見を出したり、良い点を挙げることです。会議の場で発言や提案をしたら、悪い点・改善点ばかり指摘されて意気消沈した経験ってありませんか?楽しく仕事をするために、ポジティブな意見や良い点を挙げることは省かないようにしています。

-いいね!と言われるとモチベーションが上がりますよね。

ほかにも楽しく仕事をするためにネーミングにこだわっていまして、例えば「レジェンド」というものがあります。大きな失敗を「レジェンド」としてそれぞれ「〇〇事件」と命名し、事の顛末を四コマ漫画にして明るく楽しく失敗を語り継いで二度と同じ失敗を繰り返さないよう取り組んでいます。失敗談を楽しみながら伝えることが定着したため、自分が失敗したときに言い出しやすいという効果もあるようです。
楽しく仕事をするためには、失敗に寛容であることも必要だと考えています。

お茶のある暮らしの楽しさを伝えたい!新たなチャレンジ

-失敗に寛容である会社ということは、チャレンジもたくさんされている会社なのではないでしょうか。そこに込められた思いも教えてください。

最近のチャレンジは、「茶雑菓」というお店をオープンしたことです。茶雑菓はカフェや茶葉を売るのではなく、お茶を入れるための茶器やお茶を引き立てるお菓子を販売しています。ペットボトルのお茶が当たり前の世の中で、当社ではお茶屋さんにお茶を買いにいく人を増やすにはどうしたらいいのかを考えてきました。
そんな時に、日本茶フェスというイベントがあり、参加しました。他の企業はお茶を使ったお菓子などを出品しているなかで、当社は茶器を並べ、来場者に茶器で抽出したお茶を試飲いただきました。すると茶器の購入が相次いだのです。
この経験から掴んだことは、すてきな茶器との出会いの場をつくり、試飲を通じてペットボトルのお茶との違いに感動してもらったうえで、実際の使い勝手に納得すれば、消費者は茶器を購入していくということです。さらに茶器とあわせて茶葉を購入していくという流れができるのです。
茶器が1つ売れれば、そのお客様はどこかのお茶屋さんで茶葉を買ってくださることでしょう。お茶屋さんで茶葉を買う人を1人でも増やしていきたい。お茶の普及のためにできることは何か。そう思いながら日々営業しています。
今後も明るく楽しく様々なチャレンジをしていきたいです。

「茶雑菓」店内の様子。すてきな茶器やお茶を引き立てるお菓子がぎっしり。
茶器が映えるお店の棚には古材を使用。壁や床はなんと社員の方がDIYで塗替えた。

当記事の続編です。併せてご覧ください!
 Project CHAIN 番外編#3 潜入調査であの記事を深堀り!「1つのオレンジを皆で分け合う」って結局どういうこと?
https://kanto-meti-gov.note.jp/n/n8c9d881c84cb

【企業情報】
 株式会社吉村 
 代表取締役社長 橋本 久美子(はしもと くみこ)
 東京都品川区戸越4-17-5

-編集後記-
取材中にある雑誌を見せて頂きました。それは毎年社内で発行されている雑誌で、定年退職する社員全員にインタビューを行い、1人見開き2ページに渡りすてきなお写真とインタビュー記事が掲載されているものでした。「ひとりひとりが主人公」橋本社長が大切にされている社員への想いだそうです。取材でお伺いした明るく楽しく対等に働くしかけは、橋本社長が社員おひとりおひとりを大切にしているからこそのしかけだと実感し、胸がじーんと温かくなりました。
                          担当特派員 KM