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最終目標は経営者レス?敏腕社長が目指す究極のストレスレス経営とは

経営者の情熱を発信する“Project CHAIN”第50弾。
今回は、群馬県富岡市の、株式会社土屋合成 代表取締役 土屋直人(つちやなおと)さんです。
同社は、文房具用部品や精密機器部品など、様々なプラスチック射出成形品を製造するメーカーです。自動化・省力化に従前から取り組んでおり、経済産業省のDXセレクション2023では準グランプリを受賞しています。
土屋社長の、改革を進めるエネルギーや柔軟な発想の源泉に迫りました。

社長自身が、そして全ての社員が、「働きたい」と思える会社に

―土屋社長がDXを進めようと考えたきっかけを教えてください

父が創業した当社では、かつて、安い製品を、人手に頼り、休み無く工場を稼働させることで売上を立てていました。私は小さい頃から父の姿を見ていましたが、率直に私自身、24時間・365日会社に張り付いていたくないし、社員にもそのような生活をさせたくないと思っていました(笑)。 
また、子どもの頃から、部品の切り出しなどを手伝っていましたが、単純作業が本当に嫌で、当時からなんとかできないだろうかと考えていました。
入社して間もなく、この状況を改善し、私自身や社員のストレスを減らすために、社長である父に対して、機械の導入を提案しました。はじめに提案したのは、子どもの頃に嫌だった部品の切り出しを自動化するゲートカットロボットでしたが、社長をはじめ社員全員に反対されました。

土屋合成で製造している様々なプラスチック射出成形品

―当時は自動化の先例も少なく、社内の理解を得ることは難しかったと思いますが、どのように改革を進めていったのでしょうか

反対された理由は、価格に加えて、社員の仕事がなくなることを懸念してのものでしたが、社員の負担を軽減し、よりクリエイティブな仕事を行う時間を作るための導入であることを丁寧に説明し納得してもらいました。
手作業だと、どうしてもムラが生じてしまい、品質に関するクレーム対応等にも大きなストレスが生じていましたが、ロボットによって均一に製造できるようになり、クレームも大幅に減りました。
その後は、夜間のトラブル対応のために工場に寝泊まりする生活を何とかしたいと思い、夜間の稼働状況を見るためのカメラを60台程導入しました。社員からは監視されるのではないかと反対する声もありましたが、防災の観点や生産性向上など、社員のための導入であることを説いて、導入を進めていきました。これによって、現在はスマホからでも工場内部の状況を確認できるようになり、工場に駆けつけることはほとんどなくなりました。


ネットワークカメラシステムと自動化された工場。コロナ禍でも生産を続けることができた

デジタルで多様な人材が活躍できる環境を整備

―土屋社長は今で言う「DX」に先んじて取り組まれており、先見の明が素晴らしいと思います。時流を読むコツや、今後に向けて取り組まれていることはありますか

正直なところ、私はDXを意識して進めてきたわけではなく、社員がストレス無く働けるようにしたいという思いで課題解決に取り組んでいたら、結果としてDXを果たしていたという感じがしています。常に課題と向き合うことで、自ずと時流をつかめるのかもしれません。

また、異業種とも積極的に交流して、製造業に取り入れられることはないか考えるようにしています。県立群馬産業技術センターに御紹介いただいた優れた企業や経営者と交流することで、新たな発想が得られることがあります。
最近はどの業種も人手不足と聞きますが、その一方で、心の障害を抱え、働きたくても働けない人が増えているという社会課題があります。そこで、当社では、障害を抱える人も活躍できる環境を作ろうと試行錯誤しています。
製造業においては、人当たりが良い人や、ゴマをするのがうまい人がいい製品を作れるわけではありません。障害を抱える人の中には、人とのコミュニケーションは苦手だけれど、何かに没頭できる能力が高かったり、細かい作業が得意だったりする方もいらっしゃるので、製造業と親和性があると考えています。当社では、就労支援のための子会社を立ち上げ、障害を抱える人にも活躍してもらっています。

―障害を抱える人は、どのような業務をされているのですか?

ロボット化できない軽作業のほか、3Dプリンターを活用した治工具作成にも従事しています。こだわりを持って細かい作業をすることが得意な人が、その能力を活かし、付加価値の高い仕事をしています。

3Dプリンターの活用と作成した治工具

また、社内アプリの開発にも従事しています。当社では作業マニュアルや社内のお知らせ、お弁当購入、社用車予約など様々な社内アプリを開発し、スマホからも見ることができるようにしています。これによって総務や管理部門の負担はかなり減らすことができました。
アプリの活用については、管理なんてExcelでできるではないか、と考える方もいると思います。実際に管理だけならアプリを使わなくてもできることですが、アプリができたことで、「これもアプリ化できるのではないか?」といった声が現場から生まれるきっかけになっています。現場から改善提案が出やすい環境を作ることが、DXを進めるにあたって重要だと考えています。

現場からの改善提案を拾う「DX課」の方が社内アプリを紹介してくださいました

―ストレスレスな経営を実現するために、ほかにも気をつけていることはありますか?

最近は現場を見ることを大事にしています。若い方の価値観は目まぐるしく変わりますし、高齢の方、障害を抱える方にも気持ちよく働いていただきたいので、様々な意見や考え方を取り入れるようにしています。作業着ひとつをとっても、どのようなデザイン・仕様にすべきか社員にアンケートを採りました。
また、マネジメント面では、社員の公平な評価が重要です。当社では、良いことをしてもらった社員にお礼ポイントを送ることができるアプリを開発しました。受け取った社員は誰から送られてきたかは分からないので、公平に忖度無く、感謝の気持ちや優しさを持つことができます
各社員には毎日100ポイントを送ることができる権利が与えられ、誰かに送らないと効力は発揮しません。自分が受け取ったポイントについては食堂に設置している機械で現金として引き出すことができます。現金化可能という分かりやすいインセ/ンティブがあるので、高齢の方も積極的にスマホ活用にチャレンジし、使いこなしています(笑)。

私にとっては、お礼ポイントの動きを見て社員を客観的に評価できるというメリットがあります。これまで、人事評価は、「接する機会が多い社員を高く評価してしまっていないか」と不安になる高ストレスな仕事でしたが、今では、社員同士の相互評価を参考にして、入社して間も無い社員を思い切って昇格させることもできるようになりました。

お礼ポイントは食堂で現金化可能!!

DXを進め、ストレスレスで人間の強みを活かせる職業へ

―最後に、今後取り組みたいことや、夢を教えてください

製造業を若い世代が目指したいと思える人気職業にしたいです。
そのために、今後もDXを通じて、誰もがストレスなく働けて強みを伸ばしていける環境を整えるとともに、人間、特に我々日本人の勤勉さや技術力・胆力といった強みを活かして活躍できる職業であることを発信していきたいです。
様々なストレスレスに向けた取組を進めていますが、最終的には経営者レスにしたいと思っています(笑)。あらゆる判断をデータに沿って最適化し、私が無駄に頭を悩ませなくて済むようにすることが目標です。10年前から構想していたことですが、ようやくAIの技術が進歩してきたので、AIに任せることができるところは任せて、私はもっとクリエイティブなところに頭を使っていきたいですね。

笑顔で夢を語ってくださった土屋社長

【企業概要】
株式会社土屋合成
代表取締役 土屋 直人(つちや なおと)
群馬県富岡市宇田22番地2号

―編集後記―
「ボトムアップじゃないと進まないから、先が分かっていても我慢して待つ。」
設備投資や仕組み作りは先導するものの、現場からの改善提案を待つことで持続的に会社が成長すると考える土屋社長。自分が出るべき所・引くべき所のバランス感覚が素晴らしいからこそ改革を進めてこられたのだなと感じました。
自分のストレスを減らすため、と仰ってはいましたが、社員が気持ちよく、強みを活かして働ける環境作りに邁進する土屋社長の優しさが随所で現れた取材でした。
                                                                                                  派遣特派員 KN

【参考情報】
関東経済産業局では、地域企業のDX・ロボット導入推進に向けて、活用可能な支援策情報や先進事例等を以下サイトにて御紹介しております。
ぜひご覧ください。

デジタル・DX (METI/経済産業省関東経済産業局)

ロボット(METI/経済産業省関東経済産業局)